事例:若手社員の扱いに悩む、ベテラン営業部長
松本さん(仮名、50代前半)は企画営業部の部長で、15名ほどの部下がいます。彼の会社は人事異動が少なく、松本さんは新卒から一貫して営業部門でした。しかし、ここ数年で他企業の資本が入って役員の顔ぶれが変わり、部署間の大きな異動も行われました。企画営業部は在籍期間の長い人が多かったため、平均年齢を下げるべく、新入社員を含めて3分の2以上が20代の若手社員になったそうです。松本さんは副部長から部長に昇格したものの、若手社員の扱いに難しさを感じ、筆者のもとへ相談に来たのです。
松本さんは、明るく、ハキハキとした話し方をする方です。大学時代は体育会系だったというだけあり、上下関係や対面でのコミュニケーションを重んじる人でした。部長となった彼は、当初は「メンバー全員で一丸となって……」といった類いの理想を掲げ、懇親会や会議、1on1ミーティングなどの機会をできるだけ設けようとしました。
しかし、懇親会をしようとすると、若手社員から「参加は強制ですか?」「アルコールなしのランチ会にしませんか?」などという、松本さんが若手の頃には想像できなかった反応がありました。それでも月1~2回ほどの頻度で飲み会を企画していましたが、あるとき幹事をお願いした新入社員の女性から、「こういうのは、ハラスメントではないですか?」と言われたそうです。その新入社員は、アルコールが苦手だったこと、飲み会の幹事を業務の一つとすることに違和感を覚えていたことから、そのような発言をしたようです。
企画営業部は、全員が残業や休日出勤をしなければならない繁忙期があります。松本さんが副部長だった頃は、そんな時期でもメンバー全員が当然のごとく残業し、乗り越えた後は飲み会で乾杯してチームワークを強化していました。しかし今では、若手社員は残業を嫌がるどころか繁忙期であっても有給休暇を取得しようとしたり、「あとはテレワークで良いですよね」と言って早々に帰宅してしまったりするそうです。
このような状況に危機感を覚えた松本さんは、一人ひとりに向き合おうと、1on1ミーティングの機会を増やしたり、全員のグループLINEなどをつくったりなどしました。しかし、部下たちは「時代錯誤」「公私混同」などと陰で言っていたようです。松本さんが部下たちの考えを知ったのは、360度評価(同僚や部下なども上司を評価する仕組み)からだったそうで、皆が口裏を合わせたように自由記入欄に似たようなことが書かれていたといいます。
それ以降、松本さんは、部下への接し方が分からなくなり、ハラスメントと指摘されるのがこわくて飲み会はおろか会議1つさえ開くことも躊躇するようになりました。彼の相談は「自分こそ、部下からパワハラを受けている」というものであり、今後の対応策について知りたいということでした。