「リーダーは絶対に読むべき」「いざというとき味方になってくれる本」と話題沸騰中の本がある。『それ、パワハラですよ?』(著者・梅澤康二/マンガ・若林杏樹)だ。自分はパワハラしないから関係ない、と思っていても、不意打ち的に部下からパワハラで訴えられることがある。本書は「そんなことがパワハラになるの?」と自分でも気づかない「ハラスメントの落とし穴」を教えてくれる。最近でも某テレビ局の先輩アナウンサーが後輩アナウンサーの容姿をいじるシーンが動画で拡散され、SNSで炎上するケースも見られた。昭和、平成の時代は許されていたことでも、令和だと炎上案件になってしまう。そんな「ハラスメントの意外な落とし穴」を回避するためにもぜひ読んでほしい1冊。今回は特別に本書より一部抜粋・再編集して内容を紹介する。
冗談なら、相手をイジってもいいのか?
職場において、たわいもない会話をすること自体が許されない、ということは当然ありません。
職場は仕事をするところですが、多数の人間が同時に過ごす場であり、他人との協調関係を維持することは不可欠だからです。
そのため、相手を小馬鹿にしたり、容姿をイジったりするような行為も、相手との信頼関係や友好関係を前提に節度を持って行われるぶんには、問題にならないこともあるでしょう。
もっとも、信頼関係や友好関係もない中で、相手をイジることは相手に不快な思いをさせることもあります。
場合によっては、想定外のトラブルに発展することもあるでしょう。
冗談を言ったり、軽口を叩いたりするときは、自分の言動が独りよがりのものとなっていないか注意が必要です。
また、相手の容姿や体型について言及する行為は、「職場での許されない性的言動」としてセクハラに該当する可能性も否定できません。
リスク回避の観点からは、少なくとも職場やその延長となる職場の飲み会などでは、相手の容姿や体型について言及することは避けるほうが無難といえそうです。
具体的な事例を見ていきましょう。
「デブ」「ブサイク」は、完全アウト
30代男性。少し体型がふくよかで温和な性格のため、イジられやすく、上司や同僚から「また太ったんじゃないの?」「デブだな」「食いすぎだよ」と言われている。病院の検査で引っかかったこともあり、ダイエットに取り組んでいるが、周りから「デブ」などと言われると、すごく嫌な気分になる。友だちから言われるならまだしも、大して親しくもない上司に言われると、「お前に言われたくない」という気分になる。
【解説】
「デブ」や「ブサイク」など、相手の容姿を明らかに貶める言動は、相手を誹謗中傷する行為と同じです。
業務との関連性、業務上の必要性、態様の相当性のいずれも認められる余地はありません。
そのため、どのような理由があっても業務上適正な行為と評価される可能性はほぼなく、違法なパワハラ行為となります。
なお、「太ったんじゃないの」「食べすぎだ」など、直接的な悪口とはいえない場合も、相手からすれば非常に不快ということもあるでしょう。
このような言動がただちにパワハラとなる可能性は低いかもしれませんが、積み重ねにより関係が悪化し、想定外のトラブルに発展する可能性もまったくないとはいえません。
また、場合によっては不必要な体型等への指摘・からかいとしてセクハラに該当する可能性もあります。
したがって、前述の容姿に対する言動と同様、必要のない体型や身体的特徴に関する言及やからかい等は慎むのが無難でしょう。
※『それ、パワハラですよ?』では、「そんなことがパワハラになるの?」という意外なパワハラグレーゾーンの事例を多数紹介。上に立つ人はもちろん、すべての働く人が読んでおきたい1冊。
弁護士法人プラム綜合法律事務所代表、弁護士(第二東京弁護士会 会員)
2006年司法試験(旧試験)合格、2007年東京大学法学部卒業、2008年最高裁判所司法研修所修了、2008年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所、2014年同事務所退所、同年プラム綜合法律事務所設立。主な業務分野は、労務全般の対応(労働事件、労使トラブル、組合対応、規程の作成・整備、各種セミナーの実施、その他企業内の労務リスクの分析と検討)、紛争等の対応(訴訟・労働審判・民事調停等の法的手続及びクレーム・協議、交渉等の非法的手続)、その他企業法務全般の相談など。著書に『それ、パワハラですよ?』(ダイヤモンド社)、『ハラスメントの正しい知識と対応』(ビジネス教育出版社)がある。