「あの人、パワハラで異動・降格になったらしいよ?」など、職場でパワハラが話題になることがありますよね。自分はパワハラなんてしないから関係ない、と思っていても、不意打ち的に部下からパワハラで訴えられることもあります。暴言・暴力などのあからさまなパワハラではなく、「え?そんなことがパワハラになるの?」というパワハラのグレーゾーンはけっこうあるからです。そんな思わぬ「ハラスメントの落とし穴」を教えてくれるのが『それ、パワハラですよ?』(著者・梅澤康二/マンガ・若林杏樹)です。著者は人事・労務の分野で約15年間、パワハラ加害者・被害者から多数の相談に乗ってきた梅澤康二弁護士。本書では職場でよくあるハラスメントのケースを85の具体的な事例とともに紹介。これを読めば「ハラスメントの落とし穴」を回避できます。管理職、リーダーはもちろん、組織に所属する人は誰もが読むべき1冊。今回は特別に本書より一部抜粋・再編集して内容を紹介します。

部下に「仕事を任せた」だけで、パワハラ認定!? 問題になりやすい部下への対応とはPhoto: Adobe Stock

未経験の仕事を任せたらパワハラになる?

入社したばかりの社員に、引き継ぎもなく大量の仕事をアサインする、まったく未経験の業務をなんのトレーニングもなく処理させる……。

少し難易度が高い程度であれば、レベルアップのために必要といえそうですが、自分の能力や経験を明らかに超えた仕事を処理させられるのは、不安になって当然です。

では、このように過剰な仕事を命じる行為は、法律上問題がないのでしょうか。

まず、会社は雇用契約に基づいて、社員に対して一方的に仕事を指示・命令する権利があります。

そしてこの権利には、「誰に対して」「どのような仕事を」「どのくらいの分量させるのか」を決定する権利もふくまれます。

そのため、社員側で業務量や業務内容が自分の能力に対して重たいと考えたとしても、会社がこれを指示する行為がただちに問題となることはありません。

しかしながら、このような会社側の裁量にもやはり限界があります。

社員に過大な仕事をやらせることで、肉体的・精神的苦痛を与えたり、その職場環境を害したりすることは、パワハラと評価される可能性があります。

未経験の仕事をいっさいサポートせずに処理させるのはOK?

【事例】
40代女性。未経験の仕事に転職した直後、専門的な知識や技能が必要なリーダーの仕事を要求され、うまく進められない。「君ならできる」と言われて、具体的な指導もなく困っている。

【解説】
会社が労働者に対して仕事をさせる場合、必ず経験のある業務をさせなければならない、という法律上のルールはありません。

そのため、アサインした仕事が未経験であるという理由だけで、その業務指示が問題となることはありません。しかし、

●未経験の業務ばかりをアサインし、いっさいサポートせずに放置する

●未経験だからこその失敗があった場合、その都度厳しい叱責を繰り返す

こういった行為が続くようであれば、労働者の職場環境を悪化させる行為であり、職場環境の配慮義務に反する業務指示といえ、パワハラだと評価される可能性がかなり高まります。

【Point】
部下に未経験の仕事を任せること自体は問題ないが、まったくフォローしない場合は、職場環境の配慮義務違反となり、パワハラになる可能性がある

『それ、パワハラですよ?』では、「そんなことがパワハラになるの?」という意外なパワハラグレーゾーンの事例を多数紹介。上に立つ人は必ず読むべき1冊。

[著者]梅澤康二
弁護士法人プラム綜合法律事務所代表、弁護士(第二東京弁護士会 会員)
2006年司法試験(旧試験)合格、2007年東京大学法学部卒業、2008年最高裁判所司法研修所修了、2008年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所、2014年同事務所退所、同年プラム綜合法律事務所設立。主な業務分野は、労務全般の対応(労働事件、労使トラブル、組合対応、規程の作成・整備、各種セミナーの実施、その他企業内の労務リスクの分析と検討)、紛争等の対応(訴訟・労働審判・民事調停等の法的手続及びクレーム・協議、交渉等の非法的手続)、その他企業法務全般の相談など。著書に『それ、パワハラですよ?』(ダイヤモンド社)、『ハラスメントの正しい知識と対応』(ビジネス教育出版社)がある。