彼は毎回自作の英作文のプリントを用意し、生徒を指名して黒板に答えを書かせた。私たちはその番に当たった時にはビビり散らかしていた。書いた答えは大抵の場合ケチョンケチョンに貶され、吊し上げられてしまうからだ。
指導は破天荒そのものだが
英語力が伸びていく実感があった
こう書いてきて、みなさんはなんとひどい教師なのかという印象をお持ちだと思うが、彼の授業はすばらしかった。恐怖を感じながらではあったが、「こいつの言う通りにしてさえいれば東大・京大の英作文はクリアできる」という信仰を私たちは抱いていた。
スポーツ選手などが「ゾーンに入る」という言い方をすることがあるが、当然ながら受験勉強にもその状態はある。だが、そのためには目の前の問題や自分の勉強法に価値があるという前提を相当程度信じていなければならない。
「カリスマ教師」と呼ばれる教師の真の価値は、その授業内容や表現力そのものよりも、強烈な信仰をもたらしてくれるという点にあるとすら言える。
私は京大英作文の対策はかなり難しいと思っていて、どのテキストをやっても心細かったのだが、宮坂のプリントをもらってからは、そこにある表現を繰り返し頭に叩き込めばそれで大丈夫だ、という安心感に包まれながら勉強できるようになった。
おそらくこのプリントを土台にした本は現在書店でも売られている。いい時代になったものである。
また当時、彼は「センター英語で180点以下を取る奴は人間でなくゲジゲジである」という凶悪な思想を持ちながらセンター英語の参考書を執筆しており、各所に過激なコメントを書き込んでいったら編集者に全部直されたと言っていた(「180点以下は○ね!」と書いたら「180点以下は取るなよ!」に変えられたらしい)。
成績の悪い生徒には
瞬間湯沸かし器のように激昂
彼の授業があまりにもわかりやすいので、生徒の中にはそれを毎回録音している者もいた。