困りごとのヒアリングだけではダメ「業務フローの整理」はなぜ大事?

 開発の前に、ここまで準備を徹底するのには理由がある。研修を担当したデジタル戦略部の大吉和奏氏によると、大吉氏自身、各部門の困りごとをヒアリングしただけでは、なかなかアプリに落とし込めなかったという。「私たちが落とし込めなかったということは、研修を受ける方も難しいだろうと思い、事前に整理するための表を用意しました」(大吉氏)

 実際、研修中に「うまくいかない」と相談に来た参加者に「現在の業務フローを見せてください」と言うと、「まだ整理していない」というケースが多かったという。大吉氏は、「ここを飛ばして、抽象的な状態で開発に着手すると難航する」と強調する。

ライオン デジタル戦略部 データサイエンスグループ 大吉和奏氏ライオン デジタル戦略部 データサイエンスグループ 大吉和奏氏 Photo by M.S.

 確かに、プロが開発する場合も要件定義は必要だ。そう考えると当然のことかもしれないが、一人でもできてしまうノーコード・ローコードの市民開発では、「自分の業務は自分が一番分かっているから」と、この工程がおざなりにされがちなのかもしれない。実際には、その業務に慣れ切った張本人だからこそ、改善点に気づかないこともあるだろう。

 もう一つ、裏の目的もある。デジタル戦略部の山岡晋太郎氏は、「それくらい主体性を持ってやろうよ、という思いがある」と本音を明かす。過去には、何がしたいのかふわっとした状態で相談に来て、その結果デジタル戦略部の負担が大きくなってしまったり、途中で検討が下火になってしまったケースもあったという。

「デジタル戦略部のモチベーションが下がってしまうから」と山岡氏。推進側の士気が下がれば、せっかくの取り組みも水泡に帰しかねない。大局に立つと、一人ひとりの取り組む姿勢が成否を分けるようだ。