ライオン デジタル戦略部長 木下陽児さんライオン デジタル戦略部長 木下陽児さん。かつてシステム担当を務めた研究開発本部には、木下さんが内製し、「©Yoji Kinoshita」と記した部門内システムが稼働していたという。昔のホームページがそうだったように、コピーライトは当時困ったときの問い合わせ先のつもりで記載していたそうだ Photo by Mayumi Sakai

数十年前に作った基幹システムがずっと現役、という企業は少なくない。ライオンも、40~20年前に作った複数のシステムを組み合わせた基幹システムを、あちこちカスタマイズしながら使い続けてきた企業だった。しかし「このままではまずい」と2018年に基幹システム刷新プロジェクトがスタート。「100%成功が至上命令」というプレッシャーの中、4年がかりでようやく完了したという。(ノンフィクションライター 酒井真弓)

古いシステムが問題なく動いていることが、“問題”

 2018年にスタートしたライオンの基幹システム刷新プロジェクト「プロジェクト・レグルス」が、2022年5月、ついに完了した。新システム基盤には「SAP S/4HANA」を採用。経営ビジョン「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーへ」の実現に向け、経営の高度化と業務スピードの向上を目指す。

「古いシステムが問題なく動いていることが問題だった」

 そう語るのは、プロジェクト・レグルスのリーダーで、デジタル戦略部長の木下陽児さんだ。旧基幹システムは、1980年から2000年代前半までに作られた複数のシステムで構成され、2022年までの約40年間、改修や機能追加を繰り返しながら大切に使い続けられてきた。

 なぜ、古い基幹システムを使い続けていたのか。木下さんは、「基幹システムの老朽化は問題だが、刷新することで業務オペレーションが崩れてしまうのもまた問題だった」と話す。業務と密接に結びついた基幹システムならではの葛藤だ。

「旧基幹システムは、業務部門目線で本当によくできたシステムでした。当社は、洗剤や歯ブラシといった日用品から医薬品まで、幅広く事業を展開しています。原材料の購買から生産、販売まで、裏側ではそれぞれ複数のシステムが動き、表面上はシームレスに業務を遂行できるようにしてきました。加えて、要望が上がるたびに使いやすくカスタマイズしてきました。言い換えれば、ユーザーのメリットを追求するあまり個別最適が進み、全体最適ではない状態。いつの間にか、一番新しいシステムでも20年選手になっていました」

 つまり、ライオンにとって基幹システムの刷新は、ほぼ全領域に及ぶ大規模な業務改革(BPR=Business Process Re-engineering)と同義、もしくはBPRそのものだった。そこで、準備段階から各業務部門にBPRリーダーを配置。現行の業務プロセスの改善も含め、基幹システム刷新後もスムーズに業務が遂行できるよう体制を整備した。