CDの“ジャケ買い”なんて、今の若者にはありえない

 若者がレコードやCDの“ジャケ買い”をしていたのは、せいぜい1990年代まで。今の若い人からすると信じられないかもしれないが、当時はロクに中身も聴かずに1枚3000円程度もするCDを買う若者が一定数いた。日本はまだ、経済的に豊かだった。

 それから30年。長引く経済停滞、上がらない賃金、加速度的に進行する物価高、税金や社会保険料の上昇により、日本人、中でも特に若者が娯楽に使えるお金は激減した。月に数百円から千数百円で見放題の定額制動画配信サービスがわんさかあるのに、映画たった1本に2200円も払う博打(ばくち)は打てない。

 それでなくても、若年層を中心とした“コスパ・タイパ志向”はコロナ禍以降、輪をかけて強まっている。投じた費用に対して「質が保証されており、定量的に予想できる確実なリターン」がないものは、何にしろ敬遠されるのが今の世情だ。コンテンツ鑑賞は言うに及ばず、勝敗のわからないスポーツ観戦、費用が高い割に不測の事態が起こりうる海外旅行、結婚や出産……こうしたアクションすべて、若年層ほど縁遠くなっていく。

映画が「確実に面白そう」と判断される5条件

 ところで、いわゆる映画ファン以外の大多数の人は、何をもってある映画を観る前に「確実に面白そうだ」と判断するのだろうか。おそらく以下のような条件を満たす場合だ。

(1)ヒットしたシリーズの最新作、もしくはヒットしたドラマの劇場版である:スタッフや出演者が共通していれば、同じような満足度を得られる確率が高い

(2)ベストセラーとして話題になった小説や漫画、著名な舞台などを原作としている:少なくともストーリーは面白い、という保証がある

(3)ヒット実績のあるブランドの作品である:ディズニー作品、スタジオジブリ作品など

(4)自分の好きな俳優が出演している:最悪、話がつまらなくても耐えられる

(5)現に大ヒットしており、SNSで多くの人が絶賛している:説明不要

 つまり多くの人にとって「確実に面白い」保証がある作品とは、観る前からある程度内容が想像でき(〈1〉〈2〉)、既知の要素で固められているもの(〈3〉〈4〉)だ。そうでない作品は、現在の映画興行においてはヒットを望みにくい。確実性を求める若年層の間では、その傾向がさらに強まる。