「海外で賞をとる、ドラマ系の良質な洋画」はこの条件をいくつ満たす?

 実は、これらの条件を非常に満たしづらい作品の属性がある。「海外で賞をとる、ドラマ系の良質な洋画」だ。良質の定義とは何ぞやという話を始めるときりがないので割愛するが、おおむねイメージは浮かぶだろう。こういった作品は、条件(1)~(4)にことごとく当てはまらない。

(1)社会問題をシリアスに扱ったり、芸術性や文学性を追求する作品が多く、大衆向けエンタメに多い「続編」や「ドラマの映画化」とは縁が薄い

(2)海外のベストセラーや日本で上演されていない舞台が原作だとしても、多くの日本人にはなじみがない

(3)「賞をとるドラマ系」を安定的に制作するのは、映画ファン以外には知名度の低いスタジオや監督が大半

(4)多くの日本人にとって「出演していることが鑑賞する理由」になりうるハリウッド俳優は、いまだにトム・クルーズ、ジョニー・デップ、ブラッド・ピット、レオナルド・ディカプリオ、ナタリー・ポートマン、アン・ハサウェイといった20年選手、30年選手のベテランであり、昨今の「賞をとる系」でメインを張ることが多い新進気鋭の実力派俳優の出演は、鑑賞動機になりにくい。

 つまり多くの日本人の観客にとって「海外で賞をとる、ドラマ系の良質な洋画」とは、内容が想像できず【(1)(2)】、既知の要素に乏しい【(3)(4)】ためにヒットしにくく、結果(5)も満たせないというわけだ。

 もちろん宣伝はされている。予告編もYouTubeで観られる。しかし、多くの人にとってそれは、「確実に面白い」ことを保証する情報にはカウントされないのだ。

今年のアカデミー賞受賞作、いくつ知っていますか?

 昨今はどんな映画業界人も、「超大作の大ヒットシリーズやディズニーアニメなどを除き、とにかく若者が洋画に興味を持たない」と口を揃える。(1)~(4)を満たさないことに加え、ある宣伝会社社員は「海外の社会問題や政治体制に興味がなく、世界の現代史に疎い若者が増えているからでは」とも言っていたが、どうだろうか。

 そのことは、映画賞の最高峰である米国アカデミー賞に対する日本人の興味関心の薄さとも無関係ではなかろう。そう、主要な部門を制するのは概ね「ドラマ系の良質な洋画」だ。特にコロナ禍以降、日本では年々、アカデミー賞が一般層の話題に上る機会が減っている気がしてならない。

 皆さんは、今年3月に発表されたアカデミー賞で主要な部門を受賞した作品をどれくらい「知っている」、あるいは「聞いたことがある」だろうか?