しかし、晴男はインターネットの世界やそこから派生した人間関係に依存していった。そんな中で、晴男自身が頼られる側になり、悩みを聞く側になった。そのため、弱音を吐けなくなった。
その電話が最後になった。その数週間後、晴男が自殺したと、共通の知人から連絡が入った。
処方薬のOD(オーバードーズ)だった。虐待からの後遺症が残り、十分なケアがされない中で、かねてからの「死にたい」という思いが急に蘇ったのかもしれない。
虐待による自殺を
行政が暴いたケースも
父親からの虐待が原因で自殺した中学生について、行政が検証したケースがある(注1)。
2014年7月30日、西東京市の市立中学校に通う男子生徒A(享年14)が自殺した。中学校は、父親(養父)の暴力による男子生徒のあざを確認したが、小平児童相談所や子ども家庭支援センターには通告や相談がなく、自殺を防ぐことができなかった。そのため、行政が事実把握と分析を行った。
報告書や判決などによると、13年11月19日、担任がAの顔にあった片目全体を覆うようなあざに気づく。担任は職員室に呼び話を聞くが、Aは暴力を否定した。下校時に再度、職員室で話を聞くと、「洗濯物をたたまなかったので殴られた」と話した。母親に電話をし、母親も暴力を認めたが、「父親が(拳を)目に当てようと思って当てたわけではない」と話した。
11月21日、校内の教育相談部会で、報告があったが、直ちに児童虐待とは言えないとして、見守ることに決まった。
14年4月21日、担任が授業中に、Aの目の下にあった小さなあざに気づく。Aは父親から殴られたことを認めた。5月12日の学年会で情報共有をした。
しかし、父親は6月13日以降、Aを登校させなくなった。父親は生徒が自殺する前日の7月29日、自宅の都営アパートで、Aに対して殴る蹴るの暴行を加え怪我をさせ、「24時間以内に自殺しろ。死ななかったら、俺と(Aの)弟(当時2歳)が自殺する」などと言い、自殺を教唆。翌日、Aを自殺させた。母親が自室で首を吊っているAを見つけた。
注1 西東京市「西東京市立中学校生徒の死亡事案検証委員会報告書」2015年4月30日。
https://www.city.nishitokyo.lg.jp/kosodate/nodoka/kensyouiinkai.files/kensyouiinkaihoukokusyo.pdf