その後、父親はAを殴ったとして傷害容疑で逮捕された。逮捕時点では父親は、「ボクシングのグローブをはめてAを殴ったことがある」と供述していた。のちに自殺教唆の罪でも再逮捕された。

 父親は公判で自殺教唆を認めなかったが、東京地裁立川支部はその主張を退け、15年10月29日、父親に懲役6年を言い渡した。

事件を受けて生み出された
「西東京ルール」

 このケースでは、学校には、児童虐待対応のために明確な位置付けをされた担当者がいなかった。そのため、暴力事案や不登校などの問題行動と同じ視点で対応した。

書影『子どもの自殺はなぜ増え続けているのか』『子どもの自殺はなぜ増え続けているのか』(渋井哲也 集英社新書・集英社)

 学校側は、Aが不登校状態になったときに、児童虐待の可能性を考慮した対応を取らなかったこと、また、「中学生になれば、自分で逃げられるのではないか」との認識があったこと、さらには、児童虐待の判断基準や通告後の見通しについて周知されていなかったことを認めた。

 そのため、生活指導主任などを児童虐待対応の担当にすることや、新たなわかりやすいマニュアルを作成することに決めた。

 この結果、西東京市教委は独自の再発防止策「西東京ルール」をまとめた。

(1)児童生徒が3日連続で欠席したら担任が管理職に報告する

(2)5日連続で欠席したら担任が家庭訪問し、生徒本人を確認する

(1)(2)の段階で管理職は緊急性があると判断した場合は、統括指導主事と子ども家庭支援センターに報告をする

 また、

(3)7日連続で欠席しても本人が確認できず、緊急性を感じた場合は管理職に報告する

 その場合、スクールアドバイザー(筆者註:管理職経験のある専門の嘱託員。校長や教頭の経験者)に報告をする。そして市教委は対応チームを設置し、情報収集や対応策を協議する。その上で欠席日数が10日連続となった場合は、警察に報告する――としている(注2)。

 虐待を防止することが自殺を防止することにつながることが改めて周知された。ただし、不登校対応と安否確認とを同一視すべきではないとして、学校とうまくいっていないケースでは慎重に、との声もある。

 あくまでも「正当な理由がなく連続して欠席」している場合に限っての対応とすべきだ。

注2 西東京市総合教育会議 資料5 教育部教育指導課、教育部教育支援課「児童虐待防止に関わる教育委員会の取組み」2015年11月2日。
https://www.city.nishitokyo.lg.jp/siseizyoho/sesaku_keikaku/sogo_kyouiku/shiryou/151102sougoukyoiku.files/07siryo.pdf