
原油の闇市場で起きていることを見れば、米政権がインドに対して新たに課した関税が裏目に出ていることが浮き彫りになる。
ドナルド・トランプ米大統領は先週、制裁対象のロシア産原油を購入している罰として、インドへの関税率を従来の2倍となる50%に引き上げた。ウクライナ戦争の勃発以降、インドの製油所はロシア産原油の主要な買い手となっている。
トランプ氏が「解放の日」に発表した広範な関税に対して、連邦控訴裁判所は違法との判断を下しており、対インド関税も影響を受ける可能性がある。ただし判決は政権側が最高裁に上訴する可能性を考慮し、少なくとも10月半ばまでは関税を維持することを認めた。
関税引き上げは、世界規模で日量約600万バレルの原油が取引される闇市場に波紋を広げた。動揺したインドの買い手は制裁対象のロシア産原油を手放し、代わりに中東からの調達に動いた。
ロシア産原油に目を付けたのは中国の買い手だ。商品(コモディティー)関連データを分析するアーガス・メディアの幹部、トム・リード氏によると、ロシア産ウラル原油は10月引き渡し分の発注が9月分と比べ約10倍に増加した。
ロシアはインドの顧客を取り戻そうと、原油価格を引き下げた。ウラル原油とオマーン産の同等グレードの原油との価格差は足元で1バレル当たり7ドル(約1000円)となっており、インドの製油所にとっては抗しがたいほど魅力的な水準になっている。インド政府が購入継続を承認したため、取引は元に戻りつつある。
米国の強硬姿勢は、すでに値引き販売されているロシア産原油をインドにとってさらに安価なものにするという、意図せざる結果をもたらした。ウラル原油価格は8月29日時点で、ホワイトハウスが関税引き上げを最初に警告した時点と比べ1バレル当たり1ドル安い水準となった。