
米国の対イラン空爆やロシア制裁、米欧通商交渉などが原油市場を揺さぶった。WTIは78ドル台に急騰後、一進一退の展開が続く。大幅下方修正の米雇用統計やOPEC増産観測といった弱気材料、中東・ウクライナ情勢といった地政学リスクなどの強気材料が交錯し、今後も膠着状態が続きそうだ。(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員 芥田知至)
米国の対イラン攻撃後
WTIは78ドル台に急騰
米国がイランの核施設を空爆した翌日の6月23日に米国産原油のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)は一時1バレル当たり78.40ドルまで上昇したが、7~8月は地政学リスク要因や米国と各国との通商交渉を材料に一進一退となった。
7月2日は、イランが国際原子力機関(IAEA)との協力を停止すると表明し、核問題を巡る地政学リスクが再び高まることが懸念されて原油高につながった。米国とベトナムが貿易協定で合意したことも買い材料だった。WTIは3.1%高だった。
米連休明けの7日は、米国を中心に石油需要が堅調との観測が強まり、WTIは上昇した。5日に石油輸出国機構(OPEC)と非OPEC産油国で構成する「OPECプラス」の有志8カ国が8月に日量54.8万バレル増産することを決め、増産幅は事前の予想を上回ったものの、2日に米独立記念日の休暇中の旅行者が過去最高を更新するとの予想が報道され、石油需要増加観測が強まっていた。
10日は、前日に米国によるブラジルに対する50%の追加関税や、米国に輸入する銅に対する50%の高関税を8月1日から賦課する方針が表明され、世界景気への悪影響が懸念されて原油は下落した。8日には半導体や医薬品に関税を課す方針も示されていた。
14日は、トランプ大統領が、ウクライナ侵攻を続けるロシアに対し、50日以内に停戦合意に応じない場合、ロシアと取引する第三国に対して100%の関税を課すと表明し、時間的な猶予を設けたことで即時の供給ひっ迫への懸念が緩和し、原油は下落した。
17日は、中東情勢の悪化から供給不安が強まり、原油は上昇した。イラク北部のクルド人自治区にある石油施設がドローン攻撃を受けて原油生産量が日量14万~15万バレル落ち込んだと報道された。また、16日にイスラエル軍がシリアの首都ダマスカスにある国防省などを空爆したと報じられた。
米国による対欧州連合(EU)関税引き上げの期限である8月1日までに通商交渉で合意ができなければ、EUが報復措置を講じ、米・EUの通商摩擦激化・景気悪化・石油需要鈍化といった展開が懸念されて、22日の原油相場は下落した。
25日は、米国とEUとの通商協議について、トランプ大統領が合意が成立する確率は「半々」と述べたことで、楽観的な見方が後退し、原油は下落した。
米国とEUが通商協議で米国がEUに対して15%の関税を課すことなどで合意して通商摩擦激化懸念が後退したことや、トランプ大統領が米国による対ロシア経済制裁の発動を前倒しする可能性を表明して供給懸念が強まったことで、28日に原油は反発した。
29日は、米政権がウクライナ戦争を巡って10日以内に戦争終結に向けた進展がなければ関税措置などを課し始めるとロシアへの圧力を改めて強めたことや、米中が閣僚級の通商協議で8月12日を期限とする一部関税の停止措置を90日間延長することで暫定合意したことを材料にWTIは3.7%高となった。
30日は、米政権による対ロシア制裁強化への警戒感が強まり、WTIは続伸した。米政権はロシア産石油を輸入するインドに対して25%の追加関税を8月1日から発動すると発表し、さらに税率を引き上げる可能性を示唆した。
31日は、米政権が新たな相互関税を8月1日に発動すると表明する中、世界景気の先行きへの不透明感が強まった。米エネルギー情報局(EIA)が前日に発表した週次石油統計で原油在庫が市場予想に反して大幅に増加していたことも改めて弱気材料視された。