貞本さんには「ニュータイプ」時代に短編の連載を2作お願いしていたので、マンガの実力があることは分かっていました(編集部注/筆者は1985~1991年にアニメ誌『ニュータイプ』の副編集長を務めていた)。その場で庵野さんに少年エースでのマンガ連載の約束をしました。創刊1、2号は車田正美さんの『B’TX』を大々的に推すことが決まっていました。創刊3号で『エヴァンゲリオン』の新連載をスタートしよう、その方が連載開始に弾みがつくから、ということも話しました。

 庵野さんは、ニュータイプの表紙を3回もらえないかとも言いました。これも私にとってはうれしい提案です。『エヴァンゲリオン』が放送開始となる1995年10月に先駆けること半年前、3月10日発売4月号のニュータイプで『新世紀エヴァンゲリオン』は早くも表紙を飾ります。

 それだけ『エヴァンゲリオン』には期待していたのです。

エヴァのコミックスを
書籍扱いで流通した理由

 1994年10月26日、「少年エース」創刊。

 このころは角川書店の雑誌事業部3課の課長に任命されていましたので、「ニュータイプ」など他の雑誌を見ながらも、ひたすら「エース」発のマンガを成功させるべく駆けまわっていました。特に力を入れたのは、連載作品を単行本化するコミックスです。

 大手出版社のコミックスは雑誌扱いコミックスと言われ、取次の雑誌流通経路を使っています。大部数のコミックスを扱うには、全国にまんべんなく流通する雑誌扱いが有利です。

 ただ、角川書店が雑誌扱いコミックスを選択するには弱点がありました。角川は戦後に生まれた出版社です。大手出版社と違い、取次の販売掛け率が低く設定されています。書籍もそうですが、雑誌にいたっては、さらに掛け率が低いのです。ですから、大手と同じ雑誌扱いでは利益が薄く、いずれ立ち行かなくなると予想しました。

 それで「少年エース」から出る「角川コミックス」はB6判書籍扱いにしようと決めたのです。雑誌扱いのように全国広くは撒けないけれど、綿密な販売計画に基づいて配本が可能です。角川のマンガにはその方が適していると判断しました。