すぐに歴彦社長に相談しようと、大月さんとふたりで銀座の東武ホテルのロビーに出向きました。事情を聞いた歴彦社長は、詳しい制作状況を知ろうと、庵野監督との会議を設定するよう命じました。
すぐに会議が設定され、庵野監督が、歴彦さんに状況を説明してくれました。
「春はどうやっても途中までしかできない。夏なら最後まで間に合うと思う。既に前売り券を発売しているので、春の公開延期はできそうにない。前売り券をどうするかが、最大の問題。自分としては払い戻しか、同じ前売り券で夏も観られるようにしてほしい」
庵野さんと大月さんは、春はできあがっているところまで公開し、夏にラストまでできあがった映画を公開するという2段構えの映画公開案を提案しました。歴彦社長はそれを了承します。
なるほどその手があったか、と感心しましたが、果たしてファンや配給が納得するかは分かりません。歴彦社長はすぐに配給サイドに連絡し、この方針を伝えました。
ファンにとっては
最高のバレンタイン・プレゼント!?
一般に告知するために、急遽記者会見を開くことになります。会見の前夜は歴彦さんのスピーチライターとなり、徹夜で会見の草稿を書いていました。当日は、「もしもこの会見で東映や記者たちを怒らせたら、自分のキャリアは終わりだな」とまな板の鯉のような気持ちで、会見の舞台を袖から見守っていました。

©円谷プロ
©石森プロ・東映
©創通・サンライズ
©CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD.
会見場で歴彦社長が上映方針を告げると、意外や意外。紛糾するかと心配していた記者会見場が、みるみるうちに温かいムードに包まれていきます。会見が終わり、ざわざわと記者たちが帰路につきます。「アニメージュ」の渡辺隆史さんを見つけて、どうだった?と聞くと、「いやぁ、最高のバレンタイン・プレゼントだよ!」と喜んでいます。
そうか、みんな『エヴァンゲリオン』が終わってほしくなかったんだ。少しでも楽しみが先延ばしできたことを喜んでいたのです。生き延びることができた、と思いました。
こうして映画は、3月15日に『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』として封切られました。ストーリーが途中までにもかかわらず、劇場には多くのファンが押し寄せました。そして7月19日にはストーリーを最後まで描いた『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』が公開され、春を上回る動員を記録したのです。