この現象は、マンガ原作をアニメ化するメディアミックスにも、大きな影響を与えています。DVDやブルーレイなど映像パッケージの販売がアニメ製作会社の主たる収入だった時代には、コレクター気質が高いとされていた男性中心の企画が通りやすい傾向が続きました。
映像配信の売り上げがメーンになった現在では、この傾向に変化が現れました。
定額制のサブスクリプション・モデルは、映像パッケージに比べると、はるかに購入のハードルが下がります。気軽に映像を観られる環境が、映像化される企画にも影響を与えます。女性向けの原作がアニメ化されやすい状況が生まれました。
今はロマンス・ファンタジーが全盛です。女性ファンはもちろん、そのアニメを男性が観てファンになるというのも、珍しいことではなくなりました。メディアミックスがジェンダーレスになってゆくことに、デジタルが影響を及ぼしているのです。
サブスクによって
映画の興行収入が激増
デジタル化は、作品にふれるファンの総数を増やすことにも、貢献しています。
例えば、『劇場版 名探偵コナン』の興行収入を見ると、それは明らかです。
『劇場版 名探偵コナン』は1997年から毎年ゴールデンウィーク前に合わせて公開されてきました。2010年代前半まで、その興行収入は30億円前後で推移してきました。
それが、2016年から右肩上がりになります。コロナ禍に急激な上昇を見せ、2023年4月14日公開の『黒鉄の魚影』ではついに100億円の壁を越えて138.3億円を記録。
2024年4月12日公開の『100万ドルの五稜星』では150億円の大台を突破し、154.3億円に達しました。
よく、人気キャラクターの登場が興行収入の増加につながった、という言説が使われます。もちろんそれも大きな要因でしょう。しかし、それだけではここまでの急激な伸びは説明がつきません。
これにはサブスクリプション・モデルの影響が大きいのではないでしょうか。
かつて劇場シリーズの興行収入が前作を超えることに、レンタルビデオの存在を指摘する声がありました。前作と次回作の公開のはざまにレンタルビデオで前作を見ることで、次回作への興味が高まり、前作以上の観客を動員できる、という理屈です。
レンタルビデオ店に足を運んでディスクを借りるよりも、サブスクリプション・モデルは、ずっと気軽に映像に触れることができます。前作だけでなく、過去作を一気見する機会も増えるでしょう。