あえて丸目を封印し、他のEVファミリーと同じ顔にした

沢:もちろんデザインチームとしても相当悩んだはずです。丸目にすれば「復活だ!」という歓声を得られるのは分かっていたでしょう。しかし、ID. Buzzの役割はType2の持っていた文化的な背景とか、自由のイメージとかを、新たな電気自動車の黎明期に再現する、という強い意志があったんじゃないかと思うんです。

F:市場の声が大きければ、これから丸目に変更する可能性はありますか?

沢:そればかりは何とも申し上げようがありません(苦笑)。

F:なるほど。丸目を捨てたことは一見惜しいように思えるけれども、むしろID. Buzzにとっては「次の時代を象徴する」ために不可欠な選択だった、と。

沢:そうですね。ID. Buzzの開発陣が丸目をやらなかったことは、決して「忘れた」とか「手を抜いた」とかではありません。それよりも「未来を示すためにあえて封印した」と見るべきでしょう。

F:Type2は60年代にアメリカで、特に西海岸で爆発的に流行ったんですよね。ある種、ヒッピーカルチャーの象徴のような位置づけで。どうしてヒッピーのみなさんはType2を評価したのでしょう?

沢:いちばん分かりやすいのは、Type2が「安くて、広くて、いじりやすい」と三拍子揃っていたからだと思います。誕生当初は商用のトランスポーターとして出発しましたが、1960年代くらいから、当時のアメリカの若者たちが、Type2を中古で安く買って、自分たちのアイデンティティを表現するようになったんですよね。

F:サイケな絵を描いたり。

沢:そうそう。ヒッピー文化ですね。フラワームーブメントとか、いろいろいわれてますよね。もうひとつがサーフカルチャーです。カリフォルニアの海沿いで、サーファーたちはボードをType2の屋根に積み、モノを運ぶだけでなく、キャンパー(キャンピングカー)としても使うようになっていったんですよね。

F:私もサーフィンをするのでよく分かります。早朝のうねりを追いかけるサーファーたちにとって、濡れたギアを積め、着替えができ、仲間が腰掛けられるスペースがあるクルマは、それ自体が“基地”なんですよ。リアゲートの下で雨を避け、ボードを拭き、ワックスを塗り、コーヒーを淹れ、海岸に着いて、天候や波を見ながら待つ……まあ僕はそういう使い方をハイエースで行っているのですが。

沢:ID. Buzzもぜひ候補に入れていただいて(笑)。

F:そうですね。検討します(笑)(と言いつつ、前ヨタに書いた通り中古の日産キャラバンを買ってしまいました。沢村さん、ゴメンナサイ)。