IMSは0.24ミリという極細の鍼灸治療用の鍼をトリガーポイントに素早く差し入れてはすぐに抜き去る治療法。トリガーポイント注射と違って、神経や血管を傷つけたり、感染症が起こったり、薬剤による副作用が起こったりするリスクが極めて小さいという特徴がある。加えて、1カ所のトリガーポイントの治療にかかる時間はわずか数秒程度なので、数十カ所の治療が一度に行えるという利点もある。

 素晴らしい治療法で筆者も受けたことがあるのだが、一般的な東洋式の鍼治療に比べて強い痛みが伴うのが難点だ。それでも、他の医療機関では「外科手術しかない」と診断された痛みが、数回のIMSで劇的に改善する症例が非常に多いことからIMSの需要は大きいのだが……。

日本経済に与える負の影響は20兆円
慢性痛医療は飛躍的に発展するか?

 実は2025年8月現在、国内でIMSを受けられるのは、北原氏の診療の他は、都内の治療院1カ所だけ。以前から、後継者の養成に取り組んではいたが、上手くいかなかったのだ。北原氏は現在65歳、治療院の院長も70歳近いため、いつまで続けられるかわからない。このままでは、IMSは「絶滅危惧手技」になってしまう。というわけで北原氏は、IMS治療者の養成講座を企画し、来年4月からの開講を予定している。

 2025年11月の国会で、「難治性慢性痛対策基本法」が成立することを、北原氏は心待ちにしている。

 対策基本法の成立は、慢性痛医療を飛躍的に進めると確信しているからだ。

「たとえば、がんの緩和ケア医療が進んだのは、がん対策基本法ができたからです。がん対策基本法の中で、「緩和」という言葉はたった1回しか登場しませんが、今、日本中の緩和ケアは一般的になり、日本中のがん専門病院で受けることができるようになりました」


 日本における慢性痛患者は推定2000万人以上。慢性痛が日本経済に与える影響は20兆円と試算されている。

 北原氏は、目の前の患者を慢性痛から救うだけでなく、日本中の患者が慢性痛から救われる仕組みづくりに医師人生をかけて取り組む、究める医師なのである。

(取材・文/医療ジャーナリスト 木原洋美、監修/横浜市立大学附属市民総合医療センター ペインクリニック内科 北原雅樹)