「以前診た、肩こりがひどい患者さんは、毎日朝晩、毎食後に歯磨きしていました。それも1回30分以上。異常でしょ。でも当人は、それが当たり前だと思っていました。
10年ぐらい前に、なんかのテレビ番組で、歯を大事にしないと歯周病から毒性物質が血管を経由して全身に入り、心疾患や脳疾患を引き起こすというのを観て。以来、強迫観念から、1日2時間ぐらい磨いてきたんですって。それだけ磨いていたら肩こりますよ(笑)。結局、重度の肩こりの最大の原因はそれでした」
約8割には筋・筋膜性疼痛が関与か?
日本の2カ所でしか受けられない鍼治療
もう一つ、北原氏には、治療における最強の武器がある。米国で習得し、日本に持ち帰ったIMS(筋肉内刺激法)という西洋医学式の鍼治療だ。
慢性痛は身体的な問題や心理・社会的問題などが複雑に絡み合って起こるが、中でも特に注目されるのが「筋・筋膜性疼痛」(MPS)だ。これは「筋肉」やそれを包む「筋膜」に起因する痛みで、痛みを専門的に診る海外の医療機関では、患者の85~93%に筋・筋膜性疼痛が見られると報告されている。
北原氏の現在の診療先(横浜市立大学附属市民総合医療センター)でも、患者の80%にこの筋・筋膜性疼痛が見られることから、北原氏は、これまで原因不明とされてきた慢性痛の少なくとも約8割には、筋・筋膜性疼痛が関与していると考えている。
坐骨神経痛や肋間神経痛など「○○神経痛」と診断されていても、実際の痛みの原因が神経にあることはまれで、筋肉や筋膜にあることが多いという。日本では依然として、知る人ぞ知る程度だが、米国では、ジョン・F・ケネディ元大統領の腰痛が筋・筋膜性疼痛で、「トリガーポイント注射」によって回復したことは有名な話だ。
筋・筋膜性疼痛の特徴は、筋線維の一部に刺激すると反射的に痛みが生じる「しこり(トリガーポイント)」が認められることで、他の医療機関ではトリガーポイント注射を用いて治療するが、北原氏は「IMS」で行っている。