僕は日本では診察の仕方を教わっていなかったので苦労しました。系統的な講義なんてありませんでしたから。それに患者さんのデータは全部英語です。翻訳していたら追いつかないのでそのまま理解して、自分なりの診断をして、会議用に原稿を書いて発表する。新患は毎日2人。1人で診ていました。つらかったです」
苦労のかいあって、ペインの患者の診方、診断の仕方、重症患者の診方など、全部を習得することができた。
生活習慣を一つひとつ明らかに
“痛みの名探偵”の診断推理学
米国の痛み治療を学んだ北原氏は、2006年、東京慈恵会医科大学のペインクリニックに呼ばれ、診療を開始した。当時の日本は相変わらず神経ブロック療法が中心だったが「好きにしていい」と言われ、米国流を日本人に合うようにアレンジした治療を導入することが許された。
北原氏の治療の特徴を一言で表すと「慢性痛を生活習慣病として治す」になる。つまり、慢性痛に至る生活習慣を一つひとつ明らかにしていくことで、治療への答えを探り出すのだ。
「患者さんはさまざまなところで証拠を残しています。症状であったり、所見であったり。それを全部明らかにして行き、もっとも矛盾なくつながるストーリーがあればそれが診断に結びつくのです。
名探偵コナンの毛利小五郎のおじさんみたいに「そうだ」と決めつけて、重要なことを無視したり、あるいは重要じゃないことを重要視したりすると誤認逮捕してしまいます。すべての証拠を同じように評価する、全部をもっとも矛盾なく説明できることが診断には重要なのです」
一番のヒントは、生活習慣における「癖」だという。よく「なくて七癖」というが、無意識にやっていることなので、当人は気づいていないことが多い。