
互いを思い合い尊敬し合う、のぶと嵩
のぶは、嵩のモデルであるやなせたかしの妻・暢をモデルにした人物だ。『アンパンマン』という超メジャーな代表作を持つ作家であるやなせには、本人の著書やインタビューをはじめとして記録がたくさん残っている。それに比べて暢にはほとんど記録がない。中園ミホさんが書き始めたとき、確かな情報が5つくらいしかなかった。
「はちきん(いだてん)のぶ」と呼ばれる快活な人で高知新聞社の記者や代議士秘書をやっていたが、やなせと出会って結婚すると表に出なくなり、いわゆる夫を支える良妻のようになる。今田はこの嵩とのぶの関係をどう思っていたのだろうか。
「のぶと嵩はお互いにない部分を認め合い尊敬し合っていました。『はちきん(負けん気が強い)』と『たっすいが(頼りない)』と違う部分はありますし、ときにはすれ違う瞬間もありましたが、やっぱりお互い思い合う気持ちの強さは同じでした。
お互いを尊敬し合う二人はとても素敵だなと、撮影を通して思いました。私も、この先、もしそういう機会があれば、尊敬しあえる関係になりたい。私自身が相手に尊敬される人でありたいです。
嵩とのぶは自分のためより他人のために生きている。その愛の力が大きくて、素敵だなと思いました。結婚生活に限らず、人として、誰かに思いやりや愛を持って接していきたいということをのぶを通して感じました」
最終的に愛の人となるとはいえ、のぶという役はなかなか難しい役だったのではないだろうか。戦時中は教師として子供に軍国主義を説き、戦後、その責任を痛感する。そんな彼女をどう捉えて演じたのか。
「当時は世の中の空気感として、戦争反対を大きく掲げることが難しかった時代だと思います。そんな中、のぶは教師として、軍国主義を信じ、使命としてこどもたちに伝えなくてはいけない。後にのぶもその考えは間違いだったと気づくのですが、撮影の時は私自身も複雑な思いを抱えながら演じました」
当時を生きたのぶの気持ちと、令和に生きる自身の心境とは違うと今田さんは言う。
「そこは大きく違います。のぶとしても自身の中に葛藤を抱えていたと思うので、教師として子どもたちに軍国主義を説かなければならない時の顔と、家族のなかで一人の姉として苦しむ妹を思いやる時の顔は、まったく異なる表情や心の揺らぎが見えるよう意識しました」