今田美桜が“はちきんな女の子”から、“何者でもない妻”へ。涙の長回しで締めた朝ドラ1年

明るくあたたかい現場に――座長として心掛けたこと

 言われてみれば、のぶはつねに髪をぐっとまとめて顔の輪郭をはっきり出していた。

「私はふだんから前髪を上げていることが多いので、あまり気にならなかったのですが、役として考えたとき、前髪があがって顔がはっきり見えていると溌剌と見えますよね。前髪をサイドに流すとしっとりして見える気がします」

 今田さんの髪型の話で気付いたのは、のぶが常に明るく見えたのは、潔く顔の輪郭を出していたこともひとつの要因ではないだろうかということだった。前髪をぐっとあげていたのぶに光が集まっていた。

 そう、やっぱりのぶこと今田美桜は主人公であり、座長であった。座長であり続ける上で意識されていたことは?

「1年間通して、豪華なキャストのみなさんが出演されるなかで、自分に何ができるのか、できたのか、わかりません。ひとつ、心がけていたのは『あんぱん』がとても優しくて温かい作品なので、現場もそのようでありたいと思っていました。

 私は数年前に『おかえりモネ』(21年度前期)に出ていて。その時は1年間撮影していたわけではなかったですが、そこで、出演者をあたたかく迎え入れてくれ、再び現場に戻ってきたとき『おかえり』と言ってもらえることがすごく嬉しかった記憶があるんです。今回も久しぶりの方もいて。そういう方もほっとできる空気にできたらいいなと思っていました」

 嵩役の北村匠海さんは前室と呼ばれる待機場にできるだけいることを心掛けていたと言っていた。

「後半は私も前室にいて、お昼ご飯や晩ごはんもそこで食べていました。そこにいると常にみんなの顔が見えるんです。『あんぱん』のお昼の再放送を一緒に見たりして。そういう空気が私は好きでした」

 明るくてあたたかい、そういう空気を作ることが仕事を遂行する上で大事なのだろう。とりわけ撮影が1年も続く長丁場、チームワークが何よりも求められる現場では。

 取材中も記者たちの言葉にときおり声を出して楽しそうに笑う今田さんに会場が和んだ。

『あんぱん』を通して今田さんの中で変わったところはあっただろうか。

「たぶんこれから徐々に実感していくことがあるのかな、『あんぱん』の現場を離れてまた違うお仕事をしたときに感じるのかなと思っています。

 いま言えるのは、ひとつの役に1年間向き合うことはなかなかできない体験なので、自信がついた気がしています」

今田美桜が“はちきんな女の子”から、“何者でもない妻”へ。涙の長回しで締めた朝ドラ1年いまだ・みお/1997年3月5日、福岡県生まれ。2018年「花のち晴れ〜花男 Next Season〜」で注目され、以降ドラマ・映画・CMなどで活躍。21年、映画『東京リベンジャーズ』にて第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。主な出演作にドラマ『おかえりモネ』『悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』『いちばんすきな花』『花咲舞が黙ってない』、映画『アット・ザ・ベンチ』、劇場版『トリリオンゲーム』など、2025年12月に『映画ラストマン -FIRST LOVE-』が公開予定。写真提供:NHK

今田美桜が“はちきんな女の子”から、“何者でもない妻”へ。涙の長回しで締めた朝ドラ1年

連続テレビ小説『あんぱん』
作品情報

今田美桜が“はちきんな女の子”から、“何者でもない妻”へ。涙の長回しで締めた朝ドラ1年

連続テレビ小説「あんぱん」。“アンパンマン”を生み出したやなせたかしと暢の夫婦をモデルに、生きる意味も失っていた苦悩の日々と、それでも夢を忘れなかった二人の人生。何者でもなかった二人があらゆる荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した『アンパンマン』にたどり着くまでを描き、生きる喜びが全身から湧いてくるような愛と勇気の物語です。
【作】中園ミホ
【音楽】井筒昭雄
【主題歌】RADWIMPS「賜物」
【語り】林田理沙アナウンサー
【出演】今田美桜 北村匠海 江口のりこ 河合優実 原菜乃華 高橋文哉 眞栄田郷敦 大森元貴 妻夫木聡   阿部サダヲ ほか
【放送】2025年3月31日(月)から放送開始

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