仕入れ価格の値上げで締め付け
クルマのサブスクも負担に

 トヨタの締め付け策で最も象徴的なものは、仕入れ価格の値上げだ。

 ある有力ディーラーによると、全車種併売以前、クルマの利益率は10%程度だったが、値上げにより利益率は7%程度にまで低下した。

 新車種の生産量を初期受注量が上回る場合は、販促費をかけなくても売れる。ただ、クルマが行き渡って販売が伸び悩めば、ディーラーの業績は苦しくなる。販売が伸び悩んでからディーラーがトヨタに仕入れ価格の引き下げを求めても、強気の姿勢のまま一向に仕入れ価格を変更することはなかったという。

 手元資金がなくてもクルマを手にすることができる「残価設定クレジット(残クレ)」など、ディーラーは幅広い金融商品を用意しているが、金融についてもトヨタが関与を強めている。

 ディーラーは独立資本のため、地場の金融機関の金融商品を扱うこともできるが、併売以降は、トヨタ系のクレジット会社である トヨタファイナンスに切り替えるよう強く求められるケースがあったという。

 2020年以降、トヨタファイナンスのクレジットカードのキャッシングなども含めた取扱高は右肩上がりで増加している。20年3月期は7兆9849億円だったが、23年3月期には8兆9736億円と約12%も増加しているのだ。

「KINTO(キント)」に対する不満もたまっている。キントは「まだクルマ買ってるんですか?」をキャッチコピーに、19年から始めたクルマのサブスクリプションサービスだ。顧客にとっては煩わしい保険や車検の手続きをすることなく、月額3万円から乗れる便利なサービスだが、ディーラー側にしてみれば、収益のほとんどをメーカー側に奪われているのが実態だ。

 キントはクルマを持ちたがらない若年層に向けた新たな販売戦略ともいえるが、ディーラーにしてみれば利益貢献もせず、現場に負担を強いるだけのサービスのため、「われわれを無視しているとしか思えない」(ディーラー幹部)と憤る。

 ディーラーが望むのは、トヨタとの対等な関係だ。前出のディーラー幹部は「持っている資本は懸け離れているが、顧客に対する責任や、クルマを通じて顧客の生活を豊かにしたいという部分は同じだと認識している。お互いが信頼関係を持って意見をぶつけ合える関係に戻らなければ、電気自動車(EV)の普及の阻害要因にもなりかねない」と指摘する。

 トヨタグループのダイハツ工業で起きた不祥事は、“現場”の声に耳を傾けなかったために起きたと第三者委員会の調査報告書で指摘されている。製造現場だけでなく、販売の“最前線”に立つディーラーを軽視する姿勢が続けば、築き上げてきた強固な販売網は内部から崩壊しかねない。

 ディーラーの声を拾い、寄り添う姿勢を見せなければ、斧はさびついて、中国BYDや米テスラといった黒船にも太刀打ちできなくなってしまうだろう。

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