「規律の鬼・キーエンス」が「自由闊達な会社」よりも成果を出せるワケ、1分単位で外出報告・営業電話の数まで管理…Photo:Bloomberg/gettyimages

京都先端科学大学教授/一橋ビジネススクール客員教授の名和高司氏が、このたび『シン日本流経営』(ダイヤモンド社)を上梓した。日本企業が自社の強みを「再編集」し、22世紀まで必要とされる企業に「進化」する方法を説いた渾身の書である。本連載では、その内容を一部抜粋・編集してお届けする。今回は、超・高収益企業であるキーエンスの強みを深堀りする。社員に厳格な規律を課す企業と、自由闊達で伸び伸びとした風土の企業。両者を比べると、後者の方が柔軟な発想や成果が生まれると思われがちだ。だがキーエンスは社員に厳しいルールを課しながら、他の追随を許さない圧倒的成果を叩き出している。それはなぜか――。

1分単位で外出報告
営業電話の数まで管理

 これまで本連載で述べてきた通り、キーエンスでは営業活動に関して、多くの行動指針や指標が厳格に定められている。

・定量行動管理(コール数・コール時間・訪問数・有効商談数などのプロセスKPI管理)
・商談ごとの準備フォーマット(利用用途・購入理由・購入時期・購入余地・キーパーソンなどの確認)
・ガイホー(外出・出張報告)の準備(前日までに1分単位で記載)
・商談の話の進め方の型化(60分の商談時の会話内容の指導)
・上司による確認電話(上司が営業担当の代わりに確認の電話をする)
・不要な行動の徹底排除(ネットサーフィン等の禁止)

 このような徹底したガイドラインの下で、各人が創意工夫を凝らして商談を進めていく。プロスポーツチーム並みの規律があるからこそ、各メンバーのパフォーマンスが上がるのだ。

「規律の鬼・キーエンス」が「自由闊達な会社」よりも成果を出せるワケ、1分単位で外出報告・営業電話の数まで管理…PHOTO (C) MOTOKAZU SATO
京都先端科学大学 教授|一橋ビジネススクール 客員教授
名和高司 氏

東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士(ベーカー・スカラー授与)。三菱商事を経て、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてディレクターとして約20年間、コンサルティングに従事。2010年より一橋ビジネススクール客員教授、2021年より京都先端科学大学教授。ファーストリテイリング、味の素、デンソー、SOMPOホールディングスなどの社外取締役、および朝日新聞社の社外監査役を歴任。企業および経営者のシニアアドバイザーも務める。 2025年2月に『シン日本流経営』(ダイヤモンド社)を上梓した。

 ここまで規律でしばられると創意工夫など起こりえないのではないか、と思いたくなるかもしれない。たしかに、現場は寸暇を惜しむ緊張感が張り詰めている。自由闊達な雰囲気は微塵も感じられない。

 しかし、だからといって決められたことをこなすだけでは、まだ半人前。現実の商談という修羅場の中で、必死になって知恵を絞る。そこから限界突破の道を拓くことができて、初めて一人前のキーエンスパーソンに育つ。「守破離」のうち「守」から「破」に転じることで、イノベーションの芽が生み出されるのである。