伝える内容を「見える話」にするため、聞き手が具体的にイメージしやすいよう、手などを使って、物体を疑似的に表現する方法です。

 例えば、「地球には重力があり、あらゆる物体は重力によって地面に引き寄せられる。だから、リンゴは地面に落ちる」という話をするとき。その場にリンゴも、動画も、イラストを描く紙もないとしたら、あなたの握りこぶしをリンゴに見立てて、それを急に床に着けるしぐさをしながら話をすれば、聞き手のイメージを視覚的に補完できます。

 また、「この動物の頭蓋骨の大きさはこのくらいです」と言いながら、手でおおよその大きさを表現したり、「人間の心臓の大きさは、こぶしぐらいの大きさです」と言いながら、手を握ってみせたりすれば、聞き手にとっては話の内容がより「見える」ようになります。

 聞き手の意識を集中させる際にも、ジェスチャーは役に立ちます。例えば「集中する」という言葉自体も非常に抽象的な概念であり、聞き手に「集中してください」と言っても、なかなか伝わりません。しかし、「集中してください」と言いながら聞き手の前に手のひらを向けてから握ったり、「ここにフォーカスしてください」と一点を指さしたりすると注意を引きやすくなります。

 このように、聞き手が注意を向けられる対象を具体的に示すことで、抽象的な話も伝えやすくなるのです。

音楽シーンの「伝説の瞬間」を生んだ
マイケル・ジャクソン「1分半の完全静止」

 演劇を見ていると、役者の台詞の合間には、長い沈黙があることが分かります。優れた役者は「沈黙」や「間」を利用して舞台の雰囲気を支配します。

 人に伝える際も同じです。話の途中で声を出さずに約5秒間沈黙するのも、話にメリハリを付けたり、聞き手の集中力を高めたりするのに役立ちます。

 過去に、コンサートスタジアムの中央に登場したマイケル・ジャクソンが1分半以上も不動のまま静止するパフォーマンスを行ったことがありました。スーパースターの登場で熱狂が波のように押し寄せ、会場はどんどんヒートアップしていきましたが、マイケルは微動だにせず立ち続けるだけ。観客は絶叫し続け、その興奮は頂点に近づきます。次の瞬間、彼がおもむろにサングラスを外し、音楽に合わせて踊り始めると、会場は爆発したような大歓声に包まれました。世界の音楽シーンにおける伝説の瞬間になったのです。