私たちの身の回りには、舞台の中央で喝采を浴びることもなく、静かに一つの道を極めている人々がいます。
新刊『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』(ロジャー・ニーボン著/御立英史訳、ダイヤモンド社)は、あらゆる分野で「一流」へと至るプロセスを体系的に描き出した一冊です。どんな分野であれ、とある9つのプロセスをたどることで、誰だって一流になれる――医者やパイロット、外科医など30名を超える一流への取材・調査を重ねて、その普遍的な過程を明らかにしています。本記事では、「隠れた熟達者」の本質について、『EXPERT』本文より抜粋・一部編集してお届けします。

一流 プロPhoto: Adobe Stock

自然に溶け込むプロたち

私たちの身の回りには、舞台の中央で喝采を浴びることもなく、静かに一つの道を極めている人々がいます。彼らは環境に自然に溶け込み、自己を誇示することがありません。そのため、多くの場合、私たちはその存在に気づかないまま過ごしてしまいます。しかし確かにそこにあり、確かな技を持っているのです。

こうした「隠れた熟達者」をどのように見出し、その本質を理解することができるのでしょうか。以下では、ロジャー・ニーボン著『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』の冒頭の一節より、その秘密を読み解いていきたいと思います。

身近にいるのに気づかない「一つの物事を極めた人たち」

ある日、私は長年の友人と川岸を歩いていた。彼は釣りが大好きで、釣りの面白さと極意を私に説明してくれた。「魚は釣るんじゃない。見ることが大事なんだ」。正直、最初はその言葉の意味がわからなかった。

川が曲がる地点に差しかかったとき、彼は「ほら、あそこだ。見えるか?」と言ったが、私には特別なものは何も見えなかった。流れていく数枚の葉と、日差しの中を舞う虫が見えるだけだった。「見ろよ、たくさんいるじゃないか」と彼は言い、魚の名前まで教えてくれた。だが、私には一匹も見えなかった。「無理に見つけようとせずに、見ていてみろ。きっと見えてくるよ」

私は川岸に立ち、目の力を抜いて、ぼんやりと水面を眺めた。すると、水面に映る影がじつは魚だったことがわかった。種類まではわからなかったが、確かに魚がいた。彼は子どものころから釣りをしてきたので、ごくわずかな手がかりから、そこに何があるかを読み取ることができる。その手がかりは、私には理解できない外国語のようなものだ。さざ波、一瞬の影、日差しの反射、水の上を飛び交う虫の動き。彼はこれらすべてを読み取り、意味のあるメッセージとして解釈する術を知っていて、魚の種類さえ区別できたのだ。

「見えない魚」と達人たち

達人も「見えない魚」と同じだ。すぐ身近にいるのに、あまりにも周囲の環境に溶け込んでいて見つけることができない。彼ら自身、自分が成し遂げたことを自慢しない。それどころか、気づいてさえいない。

この本で私は、あの日の友人のように「見えない魚」を指さしてみたいと思う。それは私たちのすぐそばにいるかもしれないし、私たち自身の中にいるのかもしれない。達人を見分ける方法、彼らに共通する特質、そして彼らから何を学ぶことができるのかを、これから一緒に探っていこう。

(本記事は、ロジャー・ニーボン著『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』を抜粋、一部編集した記事です。)