朝ドラで子どもを産まなかったヒロインは珍しい

アンパンマン批判の編集者演じた人は中園ミホの“大事な人”、『西郷どん』も支えた知られざる役割とは【あんぱん第126回】

 羽多子の“母”としての思いが、ここであふれ出す。

 旅行に行く前夜。

「アンパンマンはふたりの子どもながやねえ」
「のぶはなんて幸せなお母さんながやろう」

 羽多子はしみじみのぶに語る。
 
 のぶには子どもができなかったことを気にしていたこともあった。でもいまは、アンパンマンを見て子どもたちが楽しんでくれる様子に、幸福を感じている。実の子どもはいないが、アンパンマンという子どもがたくさんの子どもたちとの触れ合いをのぶに与えてくれている。

 朝ドラで子どもを産まなかったヒロインは珍しい。

 生涯独身だったヒロインは、いま昼に放送している『とと姉ちゃん』(16年度前期)があるが、子どものいない夫婦の朝ドラは珍しい。たいてい、ドラマの後半はヒロインが母となり、子どもとの関係のエピソードに時間が割かれるのだが、『あんぱん』はそうでなかった。

“アンパンマン”という嵩が生んで、のぶが育てた“子ども”の誕生から成長のエピソードが描かれたのだ。これからのアンパンマンはすくすくと育っていくだろう。

 羽多子は、自身の生涯の一番の幸せは「あんたらのお母ちゃんになれたことがやき」と言う。母という仕事の尊さを語りつつ、本当は「結太郎さんの女房になれたこと」が一番の幸せだったと明かす。前にもそう言っていたが、死別して何十年経過しても結太郎(加瀬亮)を思っている。

 自分がこんなに長生きしたのは「結太郎さんが残りの命をあてにくれたのかもしれない」と想像する羽多子。そのとき、のぶは次郎(中島歩)が遺してくれたカメラに目をやる。次郎も残りの命をのぶにくれたのかもしれない。

 まさに『アンパンマン』の歌にある「ぼくの命が終わるとき違う命がまた生きる」である。

 床の間には、結太郎の帽子、千尋(中沢元紀)のラジオ、次郎のカメラが飾ってある。仏壇に位牌や写真ではなく、当人の思い出の品を飾るというのも故人を偲ぶ方法のひとつだろう。

 ものにも生命が宿っているという意味では、アンパンにも生命が宿っている。こうしていろいろなものに生命を宿し、たくさんのキャラクターが生まれたのかもしれない。