
「日本に向けて500人の技能実習生を送り出した」。外国人技能実習生の送り出し機関の幹部は、そう誇らしげに語った。だが、その裏でベトナム人実習生たちは借金漬けにされ、酷使されている。ハノイの豪華ビルにある送り出し機関に潜入して見えたのは、技能実習制度の闇だった。※本稿は、安田峰俊『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』(KADOKAWA)の一部を抜粋・編集したものです。なお、本書は2021年3月にKADOKAWAより刊行した単行本を加筆修正の上、新書化したものです。
ハノイの豪華ビルに事務所を構える
外国人技能実習生の送り出し機関
「昨年、弊社は台湾に700人、ロシアに100人の労働者を送りました。日本に向けては500人の技能実習生を送り出しています」
男が立て板に水の調子で中国語を喋り続けていた。彼はベトナム人だが、台湾と取引関係があるためか言葉は非常に流暢だった。
2019年6月24日。私はベトナムのハノイ市内にある、フューチャーリンクという外国人技能実習生の送り出し機関の社内にいた。ゴージャスな雰囲気を漂わせた5~6階建てのビルである。1階のホールや、いま私たちがいる来客用の会議室は宮殿のように天井が高い。
同社は日本に向けて技能実習生を送り出す以外に、台湾とロシアへのベトナム人労働者派遣事業をおこなっていた。
「日本へ向かう技能実習生たちは農業・漁業・工場労働・建築などさまざまな分野で働いていますが、事前の希望とのミスマッチはありません。みんな、満足して働いていますよ」
技能実習生の逃亡は
日本側のトラブルが原因?
同社の幹部であるこの男については、ひとまずドゥックと呼んでおこう。
もっとも彼の言葉とは裏腹に、フューチャーリンクはハノイ市内にある送り出し機関のなかでも、かなり悪名高い会社である。