私たちがここに来たのは、同社を通じて広島市内の給食・食堂業務請負企業であるハンムラ社(仮名)で働いたことがあるベトナム人の元技能実習生、ハーの依頼を受けたからだった。

 ハーは27歳(年齢は当時、以下同)で、ベトナム東北部のモンカイ市郊外の農村出身だ。故郷に9歳の息子がいるシングルマザーである。彼女は日本国内でハンムラ社から非人道的な扱いを受け、送り出し機関であるフューチャーリンク社にも騙されたと主張している。

「技能実習生の逃亡問題?ああ、そういう事態があるとすれば、日本側でなんらかのトラブルがあったんでしょう。ウチから日本へ行く人材には、あまり多くありませんがね」

外国人技能実習制度の実態は
発展途上国からの労働力輸入

 日本の外国人技能実習制度の悪名高さは、すでに多くの人が耳にしたことがあるはずだ。言わずもがなの話ながら、ここでは軽くおさらいしておこう。

 外国人技能実習制度は、発展途上国に日本の優れた技術や知識を移転し、現地の人材を育成する「人づくり」を通じた国際貢献をおこなうことを目的として、バブル崩壊からほどない1993年に創設された制度である。

 もっとも人材育成や国際貢献は単なるタテマエに過ぎず、実態としては日本国内の非熟練労働現場に5年間(2017年以前は3年間)の任期付きで安価な外国人労働者を送り込むシステムとして運用されている。

 事実、日本語では技能実習生の「送り出し」と呼び替えられている行為は、中国語では「労務輸出」、ベトナム語では「Xuất cảnh lao động(漢字で書くと『出口労働』)」などと呼ぶ。実質的には実習ではなく労働力輸出にほかならないということだ。

 2019年末時点で技能実習生の総数は約41万人にのぼり、在留外国人の約14%を占めている。国籍はベトナム人が最多の53.2%を占め、次いで中国人が20.0%、フィリピン人が8.7%などとなっている。

 技能実習生になる人物の多くは、母国での学歴や社会的地位が比較的低い、農村出身の若者たちだ。