薬膳料理としての側面もある。花椒は元より漢方の生薬に用いられるもので、冷え性や消化不良を改善する効果があるとされている。スープにほかの薬膳スパイスが加えられることもあるし、栄養を考慮して入れる具材を決めれば世にも健康な一杯が完成する。これも女性ウケが良かったようだ。

 世界に7000軒以上のチェーンを展開する中国の大手「楊国福麻辣湯」などを筆頭に、麻辣湯は美容・健康を押し出したブランド戦略が取られているようである。

 楊国福麻辣湯の銀座店などはランチですぐ行列ができてしまうくらい人気らしいが、店で食べるだけが麻辣湯ではない。自宅で食べられる麻辣湯も人気を博している。

 お手軽に作れる麻辣湯の商品はいくつか出ていて、最近ではファミマ(一部店舗)で手に入る麻辣湯のカップ麺(iSDG)が話題である。麺はさつまいも由来らしく、もちっとした春雨のような触感で、「グルテンフリー」とうたっているところでおそらく女性客をつかんでいる。

 SNSではユーザー間によるアレンジレシピの開発・公開がさかんな時代である。お酢、ごま油、温玉、牛乳、野菜全般などなど、トッピングの様々なアイディアが次々にシェアされて、中には辛いのが苦手な人も楽しめるものもある。

 SNSで知ったそういうレシピを試すのが面白かったりして、麻辣湯カップ麺は「おいしい」だけでなく「みんなで楽しめる」コンテンツにまでなっている。

一過性のブームに終わるのか
それとも、人気を保って存続か

 しかしこれだけブームなので、熱が冷めるのもはやいのではないか。ブームがサッと来てサッと終わる……若い世代のトレンドによく見られるこのパターンは、麻辣湯でも起きるのか。

 世のニッチな分野を紹介する「マツコの知らない世界」(TBS系)で麻辣湯の魅力についての放送が行われたのは2024年9月である。2024年下半期Z世代トレンドランキングでも「麻辣湯」がランク入りしたことを考えると、この頃から一気に麻辣湯の人気が上がってきていて、1年たった今でもニュース系情報番組で取り上げられている。

 本国中国での麻辣湯の定着の仕方や、日本国内で幅広い年齢層に支持されていること、主に都内でじわじわ出店数を増やした七宝麻辣湯の創業が2007年であることなどから判断するに、国内の麻辣湯ブームは急に中空に表れたしんきろうのようなものではなく、しっかりした土台があった上に始められているようにも見える。

 入れ替わりの速いZ世代のトレンドランキングからはそろそろ見なくなるかもしれないが、過熱したブームが去ったあと、ある程度の人気を保って存続していくのではないか……というのが麻辣湯についての現状での見立てである。