人類の歴史は、地球規模の支配を築いた壮大な成功の物語のようにも見える。しかし、その成功の裏で、ホモ・サピエンスはずっと「借りものの時間」を生きてきた。何千年も続いた栄光は、今や終わりが近づいている。なぜそうなったのか? 発売たちまち重版となった『ホモ・サピエンス30万年、栄光と破滅の物語 人類帝国衰亡史』は、人類の繁栄の歴史を振り返りながら、絶滅の可能性、その理由と運命を避けるための希望についても語っている。竹内薫氏(サイエンス作家)「深刻なテーマを扱っているにもかかわらず、著者の筆致がユーモアとウィットに富んでおり、痛快な読後感になっている。魔法のような一冊だ」など、日本と世界の第一人者から推薦されている。本書の内容の一部を特別に公開する。

ハプスブルク家に共通する顔の特徴
近親交配で最もよく知られた、最後のスペイン・ハプスブルク王カルロス二世は「エル・エチサード(呪われた者)」と呼ばれていた。多くの病気や障害を抱えていたためだ。
体は小さく、ひ弱で痩せていたが、頭は異様に大きかった。
ハプスブルク家に共通する特徴として、彼も顎全体が異常に突き出しており、そのため上下の歯がうまくかみ合わず、食事に苦労していた。
彼は二度結婚したが、どちらの結婚でも子どもは生まれなかった。その死によって、スペイン・ハプスブルク家の血筋は途絶え、スペイン王国は後継者不在の状態に陥る。
スペイン継承戦争と多くの死者
「近親交配に大した影響などない」と思う人がいるかもしれない。
だが実際には、これがスペイン継承戦争(一七〇一~一七一四年)を引き起こしたのだ。この戦争には世界各地から一六の国が参戦し、戦闘による死者は四〇万人、病による死者は一〇〇万人を超えた。
当時最大級の“世界規模の衝突”になったのだ。
カルロス二世の数々の問題が、どれほど近親交配によるものだったのか。それを正確に知るには、彼のDNAを調べるしかない。
悲劇的な家系図
とはいえ、その家系図を見れば、ある程度の察しはつく。彼の父・フェリペ四世(スペイン王)は、母・マリアナ・デ・アウストリアの叔父でもあった。
そしてそのマリアナは、神聖ローマ皇帝フェルディナント三世と、スペイン王女マリア・アンナの娘である。このマリア・アンナは、フェルディナント三世のいとこであり、しかもフェリペ四世(カルロス二世の父)の妹でもあった。
フェリペ四世自身も、父フェリペ三世と、そのはとこにあたるマルガレーテ・デ・アウストリアとの子どもだ。このマルガレーテは、神聖ローマ皇帝フェルディナント二世の妹でもある。
そのフェルディナント二世は、いとこであるマリア・アンナ・フォン・バイエルンと結婚しており、彼女の両親もまたはとこ同士だった。そしてその子が、先ほど登場したフェルディナント三世である。
毛糸玉のように複雑に絡み合う…
フェルディナント二世自身も、叔父と姪のあいだに生まれた子であり、同じくフェリペ三世も叔姪(しゅくてつ)婚から生まれている。
こうして見ると、カルロス二世の家系図は、もはや系譜というより、子猫がじゃれてぐちゃぐちゃにした毛糸玉のように絡み合っていた。
(本原稿は、ヘンリー・ジー著『ホモ・サピエンス30万年、栄光と破滅の物語 人類帝国衰亡史』〈竹内薫訳〉を編集、抜粋したものです)