今振り返ると、手塚治虫さん的な「明るい未来」への反発もあったかもしれないと思います。手塚さんの反対を行こうという感じですね。
――この作品では綿密なプロットメモを作り、結末も決めてから連載を始めた。
他の作品では、何も決めずに描き出しちゃうことが多いんです。やったとしても、全体を3行のメモでまとめる程度でした。ここまできちんと設計図を引いたのは「漂流教室」だけです。特に理由はないんだけど、新しいことを試したかったんだと思います。
――この「漂流教室 創作ノート」は、小学館の「楳図パーフェクション!」版「14歳(全4巻)」の購入者特典として復刻された。普通のノートに手書き文字で、連載各回のプロットが詳細に書かれている。シーン細部に多少の違いはあるが、プロットはラストまで完成作品とほぼ同じ。連載前から明確なイメージができていたことを示している。
激変した環境では
「悪い子」がリーダーに
ちょっと後悔したのは、クラス全員の顔も設定しておけばよかったなって。そこまではやってなかったですね。「柳瀬君」っていう子が出てくるんですけど、本当は「梁瀬君」だった。実は五條市で僕がかかっていた医師の梁瀬義亮先生(編集部注/世界に先駆けて農薬の害を告発した医師として知られる)から取ったんですね。
――未知の世界に放り出されて、最初に心に変調を来したのは、目の前の現実を受け入れられない大人の先生たちだった。理想的な教師だった若原先生が悪鬼のように変わっていくさまは衝撃的だ。

僕がまず、描きたかった逆転がそこです。現代では「悪い子」としか見られない子どもが、この世界ではリーダーになる。逆に、現代で指導的立場にいる大人は環境の激変に耐えられない。子どもの方が未成熟な分、適応能力が高いと思うんですよ。