
八木の凄惨な戦争体験を聞いた蘭子は……
嵩とのぶと蘭子の話を黙って聞いていた八木。3人は「30年前の出来事を自分のこととして考えている」のに自分は自分の過去と向き合っていないと反省した様子。戦争体験を蘭子に話すことを決意した。
部屋の中が急に薄暗くなり、そこは夜のキューリオの応接室らしい。令和だったら、社長と従業員(出入り業者)が夜、ふたりきりは咎められるだろうなあ。
「八木さんは金鵄勲章をもらったことがあるとある人から聞きました」と蘭子はいきなり切り出す。
その勲章は戦争でどれだけ敵をあやめたかで与えられるもの。つまり八木は戦争で敵をあやめていたわけだ。敵に包囲されて万事休すの局面で銃を撃ちまくった。
「やがて夜が訪れる」とト書きかナレーションのようなセリフを淡々と、八木は銃剣で敵を刺したと語る。
蘭子はメモする手を止めて話にじっと聞き入る。
死体のポケットの財布の中に、死体になった兵士の妻子の写真が入っていた。そこではじめて敵にも自分と同じ妻子がいる、同じ人間なのだと気づいたということだろう。思い出して八木は号泣する。
蘭子はメガネを外し、八木の震える手に触れる。そこから彼をぎゅっと抱きしめ、背中をさする。
長いこと抱きしめてくれる人のいなかった八木、抱きしめる相手のいなかった蘭子が、ここではじめてお互いの孤独と悲しみを抱え合う。こうなると、あの日の傘の下では何もなかったと思いたい。
敵も妻子のために戦っている。鏡のように同じなのだということを八木と蘭子が思い知っているとき、
嵩はどんどんキャラクターを描き始めていた。
ここまでは、やなせたかしの書いていることをそのままドラマの登場人物に語らせているだけで、ドラマになってないなあと思ったりもしたが、ばい菌といい菌、敵にも八木にも愛する妻子がいた、という認識から、まるで世界に生きとし生けるものをすべて描き出したいという欲望のように多くのキャラクターを描いていくのは、ドラマティックだ。
カレーぱんまん、おむすびマン、しょくぱんまん……。どんどん誕生していく。
あっという間に1985年(昭和60年)、健太郎は、カレー屋をはじめようと考え始めていた。やっぱり彼はカレーぱんまんがモデルなのだろう。
ドキンちゃんも登場。モデルは登美子(松嶋菜々子)とのぶを足した感じ。のぶは登美子がモデルと思っているが、嵩はのぶの要素も取り入れていた。
ここで話題にあがった登美子は羽多子(江口のりこ)も千代子(戸田菜穂)と3人、のぶが高知で撮ったらしき写真に収まっている。3人ともすでに亡くなっていた。
15分の間に、これまで出てきた登場人物の行く末と、ばいきんまんとドキンちゃんと、やなせたかしの理念と見どころをギュウギュウに詰め込む脚本家の手際の良さ。冷蔵庫の素材を全部使って素早くいくつもの料理をつくるスーパー料理人のようだ。あと3回!