もし光源氏がドラッカーを読んでいたら――。
想像するだけで少し愉快で、でもなぜか妙に気になる。
今年、没後20年を迎えるピーター・F・ドラッカーのマネジメント論は、リーダーが抱える悩みを今も鮮やかに解きほぐしてくれます。
「難しそうだから避けてきた」という人にこそ届いてほしいストーリー仕立てで学べる新しいドラッカー入門、『かの光源氏がドラッカーをお読みになり、マネジメントをなさったら』がついに刊行です。
本記事では、著者の吉田麻子氏にドラッカーの魅力を伺いました。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局 吉田瑞希)

「何によって憶えられたいか?」ドラッカーが13歳で受けた問いの意味Photo: Adobe Stock

『あなたは、何によって憶えられたいか』

――著書『かの光源氏がドラッカーをお読みになり、マネジメントをなさったら』では、「強み」や「卓越性」という言葉がよく出てきます。これはどのような意味なのでしょうか?

吉田麻子(以下、吉田):ドラッカーは『経営者の条件』でこう言っています。

「業績をあげるには優れた能力が必要である。人ではなく、仕事を問題にしなければならない。その仕事について強みをもつ者を探し、卓越性を求めた人事を行わなければならない」

前回の記事(ダメなリーダーは「優秀な部下がほしい」と言う。優秀なリーダーは何をする?)でお話しした通り、「優秀な人がほしい」と言う前に「なすべきこと」、つまり仕事があり、人の「強み」を見つけて伸ばすことで、その人は特定の分野で際立った「卓越性」を手にすることができるということです。

――ドラッカーは卓越性をどう捉えていたのでしょうか?

吉田:『非営利組織の経営』にこのようにあります。

「自らの成長のために最も優先すべきは卓越性の追求である。そこから充実と自信が生まれる。能力は、仕事の質を変えるだけでなく人間そのものを変えるがゆえに、重大な意味をもつ。能力なくしては、優れた仕事はありえず、自信もありえず、人としての成長もありえない。

何年か前にかかりつけの腕のいい歯医者に聞いたことがある。『あなたは、何によって憶えられたいか』。答えは『あなたを死体解剖する医者が、この人は一流の歯医者にかかっていたといってくれることだ』だった」

この「何によって憶えられたいか」という言葉は、ドラッカー自身が十三歳のときに宗教の先生の問われた言葉で、自己刷新を促す問いとして他の本でも紹介されています。私も定期的に自分に問うていますが、いろいろな気づきがある重要な問いです。

このように、働く本人にとっても「卓越性を追求する」ということは、組織で働く機会を人生の成長の機会とすることができる重要な局面であると言えます。

卓越性を追求することが組織の成果につながる

――卓越性は個人だけでなく、組織とも関係するのでしょうか?

吉田:その通りです。『現代の経営』にはこうあります。

「優れた組織の文化は人の卓越性を発揮させる。卓越性を見出したならば、それを認め、助け、報いる。そして他の人の仕事に貢献するよう導く。したがって優れた文化は、人の強み、すなわちできないことではなく、できることに焦点を合わせる」

これは『かの光源氏がドラッカーをお読みになり、マネジメントをなさったら』でも引用されている部分です。組織マネジメントを考えるうえで非常に重要な箇所だと思います。

――卓越性を追求することは、組織の文化にも直結しているのですね。

吉田:もちろん、さまざまなタイプの優秀な人が集まったときにその強みが生かされ、卓越性が発揮されて組織の成果に結びついていくことで非凡な仕事ができることは想像しやすいことです。

しかしドラッカーはどんな人であっても、その人自身の強みに基づいた卓越性が発揮され、組織の成果に結びつけるマネジメントをすることで、仕事を優れたものにしていけると言っているのです。

つまり、人に依存するのではなく、人と仕事のマネジメントがよく機能することによって優れた組織の文化を生み出すことができるわけです。

この「人と仕事のマネジメント」を、『かの光源氏がドラッカーをお読みになり、マネジメントをなさったら』のテーマとして扱っています。

具体的には『現代の経営』などのドラッカーの著書を実際に読んでみることをおすすめしますが、まずは小説でそのエッセンスを味わってみてください。