
【ワシントン】ハワード・ラトニック米商務長官は、就労ビザ「H-1B」に10万ドル(約1480万円)の新たな手数料を課すと発表するまでの数日間、反移民団体に所属するドナルド・トランプ大統領の支持者らをホワイトハウスに集め、自身のアイデアを売り込んでいた。
トランプ氏と個人的に親しいラトニック氏はそれ以前から数カ月間にわたり、100万ドルを支払う意思のある富裕な外国人に市民権への道筋を提供する「ゴールドカード」のプロジェクトにも取り組んでいた。
トランプ政権と歩調を合わせることが多い反移民団体の間でもゴールドカード案は不評で、これが金銭による便宜供与制度に相当すると指摘。事情に詳しい関係者らによれば、ラトニック氏はこのような声に対し、最終的にはゴールドカードが全体的な移民の数を減らすことになると説明した。
また、より厳格な移民法の整備を求める支持者に訴求するため、技術者に人気の手段となっているH-1Bビザに新たに巨額の手数料を課すことを示唆。関係者らによると、複数の出席者は、これがゴールドカード案への支持を得るための隠れみのだと受け止めた。
ラトニック氏がトランプ氏と共に、H-1Bビザに関する後付けのこの提案を19日に大統領執務室で発表すると、米企業は大混乱となった。シリコンバレーの巨大ハイテク企業数社など、H-1Bビザに最も依存する企業の幹部らは、この変更について事前に知らされていなかったという。
ラトニック氏の発表を受けて米国では大混乱が見られた。帰国しようとする技術者や、政権当局者に説明を求めて質問を浴びせる弁護士、さらにはこの変更がどれほど高くつくかを把握しようとする経営幹部らがいた。
この騒動はまた、政権がトランプ氏の支持基盤の主要部分を疎外することなく、移民制度を見直そうとしていることも浮き彫りにした。
グーグルなどのハイテク企業で働いた経験を持つ広報コンサルタントのヌー・ウェクスラー氏は、「大手ハイテク企業に一泡吹かせたいと心底思っている政治的支持基盤がある。一方でそれを阻止しようとして小切手を書き、大統領執務室を出入りしている最高経営責任者(CEO)らもいる」と指摘。「この根本的な緊張関係が、この政権で繰り返し表面化している」と述べた。
移民を取り締まりつつもハイテク業界を後押ししたいトランプ氏の願望を巡る緊張は、同氏の就任前から始まっていた。保守活動家のローラ・ルーマー氏は昨年12月、米国永住権(グリーンカード)の国別上限撤廃を支持していた人物が人工知能(AI)担当の政策顧問トップに任命されたことについて、「極めて憂慮すべき」事態だとしていた。