そういったリスクを最小限に抑えるためには、世界中のAI開発者をエヌビディアのインフラ漬けにしておくことが重要です。
エヌビディアのインフラは単にGPUだけで構成されるのではなく、開発者を支援する一連の開発ソフトウェアインフラが競争上の強みになっています。ですからオープンAIを筆頭に世界中のAI開発者たちがエヌビディアのインフラ上での開発に熟練していけばいくほど、他のインフラへのスイッチが起きにくくなります。
ここが「なぜ今?」のふたつめの理由です。今のうちに今の世界が必要とする巨大なインフラを構築し提供するようにしてしまえば、世界のAI開発はエヌビディアを中心に回るようになるのです。
最後にもう一つ「なぜ今なのか?」の別の視点からの説明があります。それは「今なら財務上、それがエヌビディアには可能だ」という理由です。
エヌビディアの株式の時価総額は4.47兆ドルで、日本円に換算すると約670兆円になります。15兆円の投資というのは、エヌビディアの売上高(直近12カ月)の約25兆円や純利益(同)の約13兆円と比較すれば巨額ですが、時価総額と比べれば些少な金額です。なにしろ今回の発表直後、エヌビディアの株価が2%ほど上昇したのですが、計算上はその2%の上昇で15兆円はほぼほぼまかなえるのです。
一方で投資先のオープンAIは直近ではマイクロソフトが20%の大株主で、未上場ながら時価総額は5000億ドルに達しています。今回、そこにエヌビディアが1000億ドルを投資します。現時点でそれが何%の株式になるのかは公表されていませんが、間違いなくエヌビディアはマイクロソフトに比肩しうる大株主の座を得ることになるでしょう。
オープンAIは変則的な支配関係になっているという問題点はありますが、いずれは株式を公開する日がやってくるでしょう。そうなれば時価総額が1兆ドルを超えるのは間違いない。公開時点でその規模はテスラを抜き、新たにマグニフィセントエイトと呼ばれる地位に到達します。
その株式を仮に10%保有していたとしたら、その時点で大株主であるエヌビディアは財務的にも株主に十分に満足できるだけの含み資産を手にしていることになるでしょう。
つまり今回のニュースは、アメリカ企業が近い将来、石油、食糧に加えAIという3つめの資源で世界の覇者となるための動きを「今、始めた」というニュースだったのです。