僕は戦争を体験した最後の世代
そのような世代はもう生んではいけない

08

田原 とにかく戦争だけはしてはいけない。僕は戦争を体験した最後の世代ですが、そのような世代はもう生んではいけません。だから、絶対にこの国に戦争をさせないと、ずっと言い続けています。石破さんにも何度も言っています。

村本 この前の終戦記念日に実家で、自衛隊の弟と酒を飲みながらずっと語り合ったんです。弟とは意見は異なる部分もありますが、絶対に弟に戦場に行かせない、何があっても絶対行かせないと、僕もそう決めてます。

 戦争をしない国にする、そのために日本に必要なものって何だと思いますか。

田原 言論の自由。

村本 言論の自由は、すでに憲法で保障されているじゃないですか。でも田原さんは、そうなっていないと?

田原 その割には、学校でも会社でも、社会でも、自由に発言すると、怒られたり、批判の的になったり、攻撃されたりする。本当の言論の自由は、そういうものではないはずです。

07

村本 そうなんですよ。聞いてくださいよ。この前、同窓会があったんです。そこで、僕のドキュメンタリー映画(※)を上映してくれて、皆で見たんです。

 その後の飲み会で、同窓会を企画するのにとても苦労したと聞いて、複雑な気持ちになりました。皆、「原発のことを言うお前の映画なんて、見に行かん」と言っていたんだと。
※『アイアム・ア・コメディアン』(2024年7月公開、日向史有監督) https://iamacomedian.jp/

田原 僕も映画を見ましたが、そりゃコテンパンに言われますよ(笑)。たしか、村本さんのご出身は福井県でしたよね。

村本 福井県のおおい町です。同級生の3人に1人が原発で働いているんです。それでお酒の席で皆に囲まれて、いかに原発が安心なものかを、コンコンと説得されるわけです。僕はやっぱりね、原発が賛成とか反対とかよりも、「そもそも原発の話題を口にしてはいけない」というこの空気を早く変えたいんです。

田原 僕はずっとタブーなしでやってきました。村本さんにもがんばってほしい。

編集者 アメリカのコメディー界でもタブーはありますか。

05対談後に行われた独演会。

村本 ありますよ。ニューヨークであれば、ユダヤ人がたくさんいますし、コメディークラブのオーナーもユダヤ人ばかりなので、イスラエルの批判は言えない、みたいな。でもトランプのことはいくらでも言えますね。

 それなりに立場のある人たちや、コメディアンもそうですが、アメリカでは昔から「イスラエルが正しい」という教育を受けているので、批判するという発想自体がないというのもあるのかもしれません。

編集者 タブーというのは、誰かが教えてくれるものなのでしょうか。自分で何となく気づくものなのでしょうか。

村本 僕はユダヤ人のコメディアンに、長文で説教されました(笑)。僕はフリーパレスチナの立場なので、それをコメディでしゃべった後に、すごい長文が届いて。「あの場所は私たちの約束の場所なんだ、そう聖書に書いてあるんだ。すべてハマスが悪いんだ」と。以来、彼のライブには呼ばれなくなりました。まあ別に構いませんけれど(笑)。

06独演会は満席。地上波ではNGになりそうな政治や社会問題ネタも「ただふれて笑いを取る」のではなく、しっかりとオチをつける。多くの政治家や有識者も見に来ていたが、立場や思想を超えて皆、大盛り上がりだった。

 ただ、あえてタブーを超えてくるコメディアンも全然いますよ。アメリカのコメディアンたちの間には、「ギリギリを攻めろ、ギリギリの線の上でダンスをするのがコメディアンの仕事だ」というすごくかっこいい言葉があるんです。線の内側でやっていたって、誰の心にも残らないぞと。

 あと、アメリカでは「ファック」という言葉は放送禁止用語ですが、コメディクラブでもそのような話になったときに、「じゃあ、ファックという言葉を使わずして、どうやって政治に怒ればいいんだ!」「ムカつく政治に対して、どうして礼儀正しくしゃべるんだ!」と反発が起きたらしいんですよね。ですので、今でもスタンドアップコメディーでは、当たり前のように使われています。

田原 そこがアメリカのおもしろいところですね。政治を真っ向から批判する文化がある。

 村本さんはコメディアンとしてアメリカの各地を回り、直接、観客と接したりすると思いますが、トランプ大統領はアメリカで実際のところどう評価されているか、肌で感じることはありますか。

村本 もちろん感じます。例えばテキサスではトランプを支持している人がめちゃくちゃ多く、自身のラジオにトランプを呼んだりするコメディアンもいますね。一方で、アメリカですごく有名な保守のコメディアンが、「犯罪を犯している移民だけ追い出すと言っていたので応援したのに、犯罪を犯していない移民まで追い出している。言っていたこととまるで違うので、(応援したことを)後悔している」と批判に転じていたりと、以前と比べてトランプ支持者がどんどん崩れていっている印象はあります。

皆が議論するためのきっかけを生むためにも
空気なんて気にしていてはいけない

編集者 ​アメリカと日本の笑いで、決定的にここが違うと感じる部分はありますか?

村本さん書籍おれは無関心なあなたを傷つけたい』(村本大輔著/ダイヤモンド社)

村本 もちろんアメリカのお笑いにも、日本のお笑いのような、良い意味でも悪い意味でも、バカバカしいものもいっぱいあります。日本ではニュースを知っていなくても、例えば日常のあるあるネタなどでお笑いができるかもしれませんが、アメリカでは、政治のこととか、宗教のこととか、たくさん勉強をしないと、コメディアンになれないんです。コメディアンやお客さんがよく言うのは、「アメリカできちんとお笑いをやりたいのであればまず教養が大事だ」と。

 トランプ好きな人はそのことを自らジョークにする。キリスト教をネタにしてもクリスチャンだってちゃんと笑う。やはりそういうところはアメリカって自由ですよね。でもそのためには前提として、教養がないとやっていけないんです。

 前にシカゴの高校生たちと話をしたときに、「学校で学ぶよりも、テレビに出ているかっこいいコメディアンやミュージシャンが話していることを勉強することが多い」と言っていたんです。アメリカの若い人たちは、それを見て、そこから勉強して、政治とか宗教について、先生や友人同士で議論する。もちろんその上で、バカみたいなことをしてワイワイ盛り上がったりもする。

田原さん書籍田原総一朗 最後の世代』(田原総一朗著/三省堂/今秋発売予定)

 日本の場合は、自身の信条や支持する政党をネタにされると、自分自身が批判されているように感じる人が多いみたいです。炎上しないよう、メディアや企業は警戒する。それを忖度して芸人や音楽家はテレビで言いたいことを言わなくなる。若い人たちは、ニュースで流れていること、ネットで取り上げられていること、学校で学んだことからしか、影響を受ける機会がない。議論するにも意見は多様化しませんね。

田原 日本はね、教育について、なかなか変革ができないままですからね。空気に縛られ、主体性が育まれず、イノベーションも起きない。経済の停滞が続いてしまっている。民主主義は大切ですが、個性をつぶすほどの過剰な民主主義になってしまっている。

村本 だから僕は、皆、どんどん自分の意見を言っていくべきだと思うんですよ。芸能人も空気なんて気にしてはいけない。

田原 僕も同感です。日本とアメリカの芸能界や社会を比較できる村本さんの視点は重要です。これからもがんばってください。

村本 がんばりますよ! 一緒にがんばりましょう!

LAST