映画の中のドライブクラブは、運転手付きでクルマを貸してくれる会員制クラブで、その運転手が美女という設定でした。もっとも、これは夢物語ではありません。実際に当時ドライブクラブというものがあって、一部の店では女性を表向きドライバーとして雇いながら、その女性に売春行為を行わせていたのです。

 それはルポライターの光井雄二郎氏が書いた『白線』(1958年、南旺社)という、ソープランドをはじめとする風俗に触れたノンフィクションにも記されています。この本によると、ドライブクラブの他に同様の趣旨で「カメラクラブ」というのもあったようです。売春防止法が施行された時期には、いろいろな形態の店が“隠れ蓑”として利用されたということでしょう。

 さて、話をドライブクラブに戻しましょう。いろいろ聞いて回るうちに、執筆業の先輩から「ドライブクラブってのはあったよ。うちの親父がそこでクルマを借りていた」という話を聞きつけました。どうやら一部のドライブクラブは売春組織の隠れ蓑として使われたものの、純粋にクルマを貸し出すドライブクラブのほうが圧倒的多数で、れっきとした会員制の貸自動車業であることが判明しました。

 つまり1960年代にレンタカーが本格化(ホンダ、トヨタ、日産の順に大手が参入)する前に、カーシェアの仕組みはあったのです。ドライブクラブで使われるクルマは、米軍の払い下げ車両が多かったとか。さらに取材を進めてみると、「ドライブクラブのクルマは、ピンクのナンバープレートが付いていた」という驚きの情報を得ました。いったい、どういうことでしょうか?

 映画・白線秘密地帯には、ドライブクラブで使われているクルマの料金表が映るシーンがあります。その料金は、58年式のシボレーが1時間1000円、10時間9000円。54年式のクラウンが1時間600円、10時間5500円。劇中ではありますが、これが相場だとします。

 映画公開時の大卒初任給は約1万3500円、国鉄(現JR)の最低運賃が10円でした。ということは、ざっくり現在の価値に換算すると、58年式シボレーを借りる料金が1時間1万~2万円ということになり、それなりに高額だったことがうかがえます。