ヘブンとトキ、距離を超えてつながる? 「ふたりが出会うまで 5612日」
10日ぶりに帰宅した司之介を祝って、夕食は豪華にお肉の入った鍋が用意される。
「しめこ汁」と言うフミ。
松野家の新たな門出に食べる。おいしい。
「でしょう〜」と言いながら、“しめこ”が意味するものは何か言いづらいフミ。
勘の良いトキは、立ち上がり奥のウサギの部屋をのぞく。
ウサギの籠は空だった。
勘右衛門も走り込んできて、ウサえもんのちょんまげ(髻)が落ちているのを見てショックを受ける。頭にちょこんとちょんまげをつけていたあの愛らしいウサギは勘右衛門の胃の中に収まってしまった。
西日の当たった部屋がやるせなさでむせ返るようだ。西日――夕日を「斜陽」と呼び、衰退していることを同じく「斜陽」と呼ぶ理由がよくわかる。
背に腹は変えられないから、結局おいしくいただいたのかははっきり描かれない。
トキには「うらめしいことがあると怪談をせがむ」習慣があり、フミに添い寝してもらいながら怪談を聞かせてもらう。だが「この日ばかりはうらめしさばかりが募るのでした」と、怪談を聞いても心が晴れない。さすがにペットのようにしていたウサギを食べるのは幼心に厳しいものがあるだろう。たぶん彼女の今後の人格形成に大きな影響を及ぼしたのではないだろうか。
前作『あんぱん』に出演していた北村匠海は映画『ブタがいた教室』(2008年)に出演して、そこで妻夫木聡と出会い、『あんぱん』で再会したことを喜んでいた。この映画は小学校のクラスで飼っていたブタを最終的に「食べるか」「食べないか」をクラスで話し合うという物語だった。子どもが命と向き合うシビアな題材なのだ。
日本で古来伝わる怪談を収集する小泉八雲と妻の話かと思っていたら、どう生きるかを突きつけられてしまった。
場面が変わって、アメリカのシンシナティでは新聞記者のレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)がどういうわけか餓死寸前のうらめしい日々を送っていた。
拳銃で自殺を図ろうとするヘブン。武士における切腹みたいなものであろうか。
銃を頭に突きつけ、引き金を引いた瞬間、トキの寝室のろうそくがふっと消える。同時に、トキの瞳とヘブンの瞳のアップ。
銃には弾が入っておらず、ヘブンは死ねなかった。窓から風が吹きこむ。まるで、松江のろうそくを吹いた風が遠くアメリカまで吹き抜けたかのように。
「人生って、ねえ」と蛇(渡辺江里子)と蛙(木村美穂)がつぶやく。
トキとヘブンにはもしかして何か不思議な神の力のようなものが働いているように思える場面だった。
「二人が出会うまで 5612日」とテロップが出て親切設計。『あさイチ』で大吉が『宇宙戦艦ヤマト』を思い出していたが、ある世代はやっぱりそれを思い出してしまうだろう。橋で『あしたのジョー』の泪橋を思い出すのと同じく。
ヤマトは毎回「人類絶滅まで、あと300と64日」などとカウントダウン方式で、続き物を見る楽しみがあった。でも『ばけばけ』はあとまだ15年も後。気が遠くなりそうだが、そこは朝ドラ名物のワープがあるはずだ。
