しかし、年齢・勤続年数および学歴を統制して、別の言い方をすると、これら属性の違いによる影響を取り除いて、同じ年齢・同じ勤続年数・同じ学歴を持つ男女間の差異の平均を捉える計算方法を用いたところ、格差はマイナス15%に広がった。

 つまり男性を100とすると、女性は85の水準となるという結果が出てきた。

 先ほどの「男女格差がほぼ存在しない」という主張は全く正しくないわけである。

正しい格差データを出すことが
市場からの信頼につながる

 一方、食品メーカーB社は、管理職層の大半を男性が占める伝統的な日本企業だ。女性は、工場や事務職に多く分布している。単純な平均の比較ではマイナス38%もの格差があるという結果になった。

 男性100に対して女性の平均賃金が62となる不本意な結果を出して、B社は「格差は男女の年齢差、勤続年数差、学歴差によるもので、実態を反映していない」と説明するだろう。

 この場合も、同じ属性グループ内での男女賃金差の平均を取る計算をするとマイナス15%と格差が半減した。

 以上の2社の例を見て分かるのは、属性を統制して比較するとどちらも15%と同程度の格差が存在するのに、単純な平均賃金の比率だと男女の属性分布の差によって歪められ、全く異なる結果になってしまうケースがあるということだ。いずれのケースでも、望ましい政策につながりにくい。

 逆に同じ属性を統制して賃金格差を算出すれば、横並びで比較可能になる。そうした比較可能性の高い指標を開示することは市場への改善意思のアピールとなり、市場からの評価にもつながる。

 加えて、単純平均の比率での計算だと、時系列の変化に改善努力が正しく反映されないという問題も生じる。

 例えば、女性管理職を増やすために新卒女性の採用を増やすと、給与金額の低い若い層での女性比率が高まり、平均賃金で割り出した男女間の賃金の差異は逆に開いてしまう。これは女性活躍推進施策の効果を評価するための指標としても不適切なのだ。