防衛庁内局の背広組官僚も、陸海空幕僚監部の制服組も、脂の乗り切った30代の若者が中心の会議だ。内局官僚で言えば、増田好平氏、高見沢将林氏、桜井修一氏、中島明彦氏らがメンバーで、後に防衛事務次官や次官級の官房副長官補に上り詰める“若きエース”だった。

 議論の検討項目としては、海関連では対潜/艦隊防空空母の必要性や原子力潜水艦の必要性も俎上に載せられた。正直言って「こんなことまで話して大丈夫なのか」と思うほどのタブーなき議論であった。その射程は、なぜ陸海空自衛隊が必要なのかという、そもそも論にも及んだ。

「本当にソ連は攻めてくるのか」
陸上自衛隊に向けられた問い

 自衛隊が存在するのは、我が国に対する組織的かつ計画的な侵略を排除するためなのであるが、どのような武力攻撃が想定されるのか、これを撃退する上で陸海空自衛隊がそれぞれどのような役割を果たすのか、というところから始めるのである。本来であれば、陸海空の相互批判はタブーであるが、自由闊達な議論が展開された。

 一番簡単に説明できたのは、航空自衛隊であった。空の上に警察はいない。だから、領空を侵犯しようとする外国軍を排除するのが航空自衛隊の役割であるというわけだ。しかも、先の大戦で旧日本軍は航空戦で壊滅的な敗北を喫し、軍事的には、これが日本の無条件降伏につながったのであるから、航空自衛隊の重要性は自明の理と言ってもよい。

 海上自衛隊の場合もそれなりに理屈はつく。先の大戦では連合艦隊が激闘の末殲滅され、同時に日本列島の周辺海域は敵の機雷と潜水艦で埋め尽くされて海上輸送が機能不全となり、国民1人当たりの摂取カロリーが1000キロを切るか切らないかという状態に追い込まれ、餓死者が出る直前の事態になった。

 さらには日本有事の際、敵国を攻撃する役割を担う米軍が来援するルートを確保するというのも海上自衛隊の重要な役割であることは言うまでもない。

 これに対し、陸上自衛隊は難しい問いに答えなければならなかった。「本当にソ連は日本に攻めてくるのか」という問いだ。前述したように、1976年の防衛計画の大綱では、限定的かつ小規模な武力侵攻を独力排除できる防衛力を持つという基盤的防衛力構想が打ち出されていた。

「限定的かつ小規模な武力侵攻」を行うとすれば、それはソ連に他ならない。だが、本当にソ連は攻め込んでくるのかという問いが陸上自衛隊に向けられた。