社内イベントを超えた
社会的意義のある取り組みに

 普段のオフィスでは、日常業務がどうしても優先されがちですが、温泉地の静かな環境では、未来に向けた議論に集中できます。また、自然の中に身を置くことで視野が広がり、既存の枠を超えた発想が生まれやすくなります。特にDXやグローバル展開など、長期的で大きなテーマを扱う際には、温泉地オフサイトによる「空間の転換」が効果的です。

 さらに、温泉地という地域性を生かし、地元企業との交流や地域資源を活用したワークショップなどを取り入れることで、地域共創の視点を経営戦略に組み込むことも可能です。これは単なる社内イベントを超え、社会的意義のある取り組みとして評価されるでしょう。

 日本には数多くの温泉地があり、それぞれに独自の魅力と歴史があります。熱海や箱根のような都心近郊の温泉地、草津や別府のように本格的な温泉文化が根付いた地域、あるいは隠れ家的な小規模温泉地など、目的や企業規模に応じた選択肢が豊富に揃っています。この地理的多様性もまた、日本ならではのオフサイト文化を支える強みです。

 今後、リモートワークやハイブリッドワークが進む中で、組織の結束をどう維持するかは更に大きな課題となります。その中で「温泉オフサイト」は「組織の文化を醸成する場」としてますます重要になるでしょう。

 AIやデジタルツールが進化する時代だからこそ、人間同士が直接顔を合わせ、自然の中で思考を共有する価値が際立ちます。温泉という日本独自の文化資源は、そのための最適な舞台なのです。

 このように温泉地でのオフサイトミーティングは、発想の転換、身体的リフレッシュ、人間関係の深化など多くの効果をもたらします。そしてその先には、イノベーションの促進、チームビルディングの強化、地域社会との共創、経営層と社員の理念共有といった、組織を持続的に成長させる可能性が広がっています。

 バブル崩壊以前の多くの日本企業では、温泉地での社員旅行が一般的に行われていました。これはオフサイトミーティングというよりは、仕事抜きの観光中心の親睦旅行でした。

 皆で巡る観光名所や、夜の畳の大広間での無礼講の宴会は、チームの絆を深める有効な機会でした。そして「温泉旅行」でも「会議」でもない、両者を掛け合わせることで生まれる相乗効果こそが、温泉オフサイトの真価です。都会のビジネスマンにとっても、企業にとっても、そして地域社会にとっても、温泉地でのオフサイトはこれからの時代を支える「新しい組織づくりの実践の場」となるでしょう。

(藤田康人/インテグレート代表取締役CEO)