誰も注意できない中
2人の中年男性が近づく

「企画の内容を興奮気味に説明しているのですが、その声はうすら滑りながら車内に響き渡ります。お笑い芸人に憧れた、いかにも素人な話し方で、聞いているこっちが恥ずかしくなりました。控えめに言ってかなり不快。聞いていられません。

 痛すぎるYouTuberの登場に、車内がゾワッとしました。しかし、うるさくても誰も注意しようとはしませんでした。とにかく我慢。誰もが耐え忍ぶ修行そのものです。コイツら早く降りないかな、と祈り続けるばかりでした」

 しかし、そんな空気が一変したと言います。

「ほどなくして、2人の中年男性がゆっくりと彼らに近づきました。2人は、カジュアルな服装で、休日の父親、といった風貌(ふうぼう)でした。2人は落ち着いた様子で、YouTuberらしき男性たちに近づきます。

 カメラに向かってしゃべっていた男は、人が近づいてくる気配を感じ、ハッとしていました。中年男性は、おだやかに、かつ静かにはっきりとこう言ったのです」

「警察だけど、
迷惑だからやめてくれる?」

「『警察だけど、他の乗客に迷惑だからやめてくれる?』この一言は、魔法のように作用しました。声をかけられた若者たちは、一瞬にして顔色を変え、すぐさまカメラを止めました。それ以上騒ぐことはせず、気まずそうに固まっていました。

 そして次の駅に着くとそそくさと電車を降りていきました。あんなに騒いでイキっていたのに、下を向いて静かになっていたのは、かなりダサかったですね(笑)」

 おかげで、車内はまた快適な雰囲気を取り戻したといいます。

「誰もが声を上げられずにいた状況での行動力は、見事でした。私含め、他の乗客も全員がスカッとした出来事です」

 無自覚でも迷惑行為を行う者にとって「警察」という言葉は、無視できないほど威力のあるパワーワードだったのでしょう。単に「うるさいですよ」と注意されるよりも、はるかに強い心理的作用があったようです。

 騒音を立てる人に注意をするのは勇気のいることです。しかし、周囲への思いやりと、状況に応じて行動する機転と勇気によって、快適な車内空間が築き上げられていくのでしょう。

※本記事のエピソードは、鉄道トレンド総研に寄せられた声を元に再構成しています。