ひとを幸せにする武士とは?
首尾よくお見合いが終了して、帰宅したトキたちはホッとしたように夕食を食べている。
その昔、フミ(池脇千鶴)もからくり人形のように固まって、勘右衛門(小日向文世)にお茶を引っ掛けてしまったと言う。幸い勘右衛門は寛容で、怒らずに済ませてくれた。でも、あのときお見合いで断られていたら、今頃、こんなふうに貧しさに苦労することもなかったとフミは後悔を語る。
勘右衛門「あの日のわしが泣いてしまうぞ」
トキ「泣かないであの日のおじじさま〜」
基本的にネガティブな話題を楽しそうに語ることが多い。
場があたたまりにあたたまった末、司之介(岡部たかし)が今日の見合いの結果をトキに話す。
即答だったと言う。
「では発表する」
トキは「お願いしますお願いします」と神様に祈る。
この感じ、『ねるとん紅鯨団』のようだ。あれは男性が気に入った女性に「お願いします」とつきあいを申し込んで選んでもらうもので、女性主体のいま思えば女性に選ぶ権利のある番組だった。まあまずは大衆の前で選ばれない(告白されない)女性もいたわけだが。はじまったのが1987年なので男女雇用機会均等法施行にあたって男性優位の世の中が変わりかけていた時期だったのだろう。
結果は――「すまん断られた」だった。その後のトキの動揺がすごい。
「えええ」「うそでしょうそでしょ」「なんでなんで」「すんごいすんごい」と完全に令和の人のノリで動揺の言葉を繰り返す。
「少しでも座を和ませようとしたら思いのほか和みすぎてしまった」とフミは申し訳なさそうに、でも――と聞いてほしいことがあると言う。
「聞きたくない聞きたくない」とトキは両耳をパタパタと塞ぐ。
断られた理由はいまだに武士を引きずっている家には婿入りはさせられないということだった。
呆然となるトキ。司之介はお構いなしに次の一手は髷(まげ)を結っている相手と見合いすることだと自信満々なのだが、トキは怒りだす。
武士でいるのは構わないが、「やるなら人のためになる武士やってよ」「せめてひとに迷惑かけない武士やってよ」といつまでも武士にこだわる父と祖父に感情をぶつけ、家を飛び出した。
残された司之介は「なんじゃひとを幸せにする武士って……茶柱か」とぶつぶつ。茶柱とは第7回の「人柱」にかかっているのだろうか。
トキは家のそばの共同洗い場で、泣きそうなのを我慢している。そこにサワ(円井わん)が来て、やさしく話しかける。
「小豆洗いに似ちょらんかったけど〜〜」とおいおい泣くトキをよしよしするサワ。
安普請だから戸外でトキが泣いている声が家の中に聞こえてきて、いたたまれない司之介、勘右衛門、フミ。
前半おもしろだった分、やるせない。でもそのあと再びおもしろに反転する。ふじきみつ彦の脚本が冴える。