クマの頭数が増えて分布域が拡大
人への恐怖心が減った原因は?
2023(令和5)年5月には、札幌市西区西野の住宅街に親子グマが出没。札幌市南区、芦別市、室蘭市、留萌市など住宅街に近い場所での目撃が後を絶たず、道は「人里出没抑制等のための春期管理捕獲」を実施することになった。しかし、2024(令和6)年以降の状況も大きな変化はみられていない。
「頭数が増えつつ、分布域が広がっています。とくに市街地出没が増え、人の存在を気にしないクマのアーバン化が進んでいます。市街地に出てくるクマは、アーバンベアと呼ばれていますが、クマが変化したわけではないと思います。彼らは自然の中で自分たちの暮らしを送り、普通に生きているだけです。数が増えて行動範囲を広げる中で、市街地も含めざるを得なくなったということでしょうね。
クマが、人に対する恐怖心や慎重さが薄くなってきたのは、クマが変わったというよりも、人が慣れさせている面があるからです。ハンターが山に入ってクマを撃たなくなった、追われることがなくなったこともその理由の1つです。他にさまざまな原因もあって、市街地への出没が増えたのだと思います。それが人間にとって今、大問題になっています」
そう語るのは、長年に渡ってクマを研究する坪田敏男教授。人間活動の変化や都市計画(緑化)などによって、人が多い市街地とヒグマが生息する森林がつながってしまい、ヒグマの暮らす場所と人が暮らす場所の境界となる「緩衝地帯」が少なくなった。
放置された果樹園や畑が
クマを誘引している
さらに近年、地主の不在などで土地が放棄されたり、離農者が増加するなどによって草木が生い茂り、クマが姿を隠しやすくなっていること、また放置された果樹や家庭菜園などがクマを誘引することも、市街地出没が増えた理由に挙げられる。
「道内の生息域で密度が高いのは、主に道南の渡島半島と道東の知床半島、そして日高地方です。渡島半島の黒松内低地帯には、ここだけにしかないブナがあります。ブナの実は、ツキノワグマの大好物です。本来ヒグマはドングリが主食ですが、道南のクマはブナを食べます。
しかし、ブナの実はもともと数年に1回しか豊作年が来ない植物で、毎年コンスタントに食べられるものではないのですが、北海道は他にもミズナラやコナラ、ヤマブドウやクルミなど餌に多様性があります。本州のように、ドングリが不作になると、どっと人里にクマが出てくるということは少ないと思います」
