基本はベジタリアンだが
肉食の“ヤバいクマ”が出現する理由
「ヒグマはもともと肉食獣ですが、今は基本的にベジタリアンです。私が絶滅危惧種として注目し、研究しているホッキョクグマは肉食に戻ったクマです。冬から春にかけてひたすらアザラシだけを食べます。しかし、ヒグマは『チャンスがあれば肉も食べる』草食に近い雑食動物です。臨機応変に食べ物を変えながら生きてきました」
そうすると、「ヒグマの肉食化が進んでいるのか?」という疑問がわく。2023(令和5)年7月に死亡が確認される4年間に、合計66頭のウシを襲って食べた「OSO18」という個体の記憶が新しい。特別対策班まで組織され、大捜索が行われた“忍者グマ”“怪物グマ”と呼ばれたOSO18は、草や木の実には目もくれない完全な肉食だった。
「これはあくまでも私の推測ですが、最初OSO18は、死んだシカを食べた経験があって、肉の味を憶えたのかもしれません。そしてある日、電気柵などでしっかり管理していないような開放的な放牧地でウシを襲ってみたのだと思います。それがたまたま上手くいって、食べてみたらシカと同じように美味しかった。シカとウシが結びついてしまったのだと思います。北海道で長い間営んできた酪農の歴史の中で、このように多数のウシがクマに襲われる事件は起きていませんでした。
道内に1万頭以上いるヒグマの中でも、このような個体は“ヤバいクマ”であり、1万頭に1~2頭いるかいないかの稀な個体です。しかし、シカの死体処理が徹底されないという現実が変わらないのであれば、第二のOSO18が出現する可能性はゼロではないと思っています」
人を避けるはずのクマが
積極的に釣り人を襲ったワケは?
2023(令和5)年5月、幌加内町の朱鞠内湖のキャンプ場で釣りをしていた男性が、クマに襲われる死亡事故が起きた。坪田教授によれば、この件も“ヤバいクマ”が引き起こした可能性が高いという。