
近年、市街地でクマに襲われる被害が続出している。本来ならば山奥で暮らしているはずのクマが、人里に出没するようになってしまったのはなぜなのか。長年に渡ってクマの生態を研究している、北海道大学獣医学研究院の坪田敏男教授が解説する。※本稿は、三才ブックス(編集)『ドキュメント クマから逃げのびた人々』(三才ブックス)の一部を抜粋・編集したものです。
市街地へのクマ出没が激増
男女4人が重軽傷
2000年前後、それ以降における北海道のクマ出没は、とくに市街地でのケースが後を絶たない。2019(令和元)年12月、帯広の中心街に近い住宅街を走り回り、JR帯広駅から1kmほどの場所にある、小学校校庭内の木の上に登っていたところを駆除された事例。同市によると過去10年、市内中心部でクマが目撃された記録はないという。
同年、山とは接していない平地林で、札幌市、江別市、北広島市の3市にまたがる道立野幌森林公園に77年ぶりにヒグマが侵入。その後、北広島市内で駆除されるまでの約3カ月の間、公園内とその周辺を歩き回った。
市街地でのクマ出没対策を見直すきっかけになったのが、2021(令和3)年6月、札幌市東区に出没し、男女4人を襲って重軽傷を負わせた事例だ。山のない札幌市東区で、クマが人を襲ったのは、1878(明治11)年、戦前に発生したクマ被害三大事件の1つとも呼ばれる札幌村・丘珠村(当時)事件以来、実に143年ぶりのことだった。
2022(令和4)年3月の事故は、札幌市西区山の手の住宅街、市民の散策の場として親しまれている標高311mの三角山で起きた。クマの冬眠穴があると通報があり、その調査を委託されたNPO団体職員2名が、穴から飛び出してきたクマに襲われケガを負ったのだ。