累計18万部を超え、法律学習の入門書として絶大な支持を集めるベストセラーシリーズ。その最新刊『元法制局キャリアが教える 行政法を読む技術・学ぶ技術』が発売されます。著者の吉田利宏さんは、衆議院法制局で、15年にわたり法律や修正案の作成に携わった法律のスペシャリスト。試験対策から実務まで、行政法の要点を短時間で学べる1冊です。この連載では、本書から一部を抜粋し、行政法を読み解くポイントをどこよりもわかりやすく解説します。

【2分で学ぶ行政法】「行政上の強制措置」とは?イラスト:草田みかん

強制措置の必要性
(宝塚市パチンコ条例事件判決)

 平成の半ばに地方公共団体関係者に大きなショックを与えた判決がありました。宝塚市パチンコ条例事件判決です。

 宝塚市はパチンコ店やラブホテルなどの建築を規制する条例を制定していました。これらの建物を建築するには市長の同意が必要だったのです。

 そのようななか、ある人が市内でパチンコ店を経営しようと市長に建築の同意を求めましたが拒否されました。ところがその人は同意を得ないまま、建築確認を得て、パチンコ店の建築を始めます。

 慌てた市長は条例に基づき建築中止命令を出しましたが、それでも工事をやめようとしません。

 たまらず市は工事を続行してはならないとの裁判所の判断を求めて提訴しました。ところが、裁判所はこの訴えを却下してしまいます。

 却下というのは、いわゆる門前払い判決です。内容を審理せずに退けてしまったのです。

 裁判の対象である「法律上の争訟」に当たらないというのがその理由でした。

 裁判所法3条1項には裁判所の役割として「法律上の争訟を裁判し」とあります。この「法律上の争訟」とは、権利義務をめぐるトラブルのうち、法律を適用することによって解決できるものを指します。

 最高裁は却下した理由について「国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから、法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではなく、法律に特別の規定がある場合に限り、提起することが許されるものと解される」(最判平成14・7・9)と述べています。

 権利を守るための訴訟ではないよね……といったところでしょうか。この判決に対して批判することは可能です。しかし、最高裁判例は法令の解釈においては神の声ともいえます。この判例は行政が行った義務付けに対して、どのようにそれを実現してゆくかという問題をつきつけました。行政上の強制措置はとても重要な問題なのです。

強制措置の全体イメージ

 たくさん似た言葉が出てくるのが行政法のイケナイところです。「行政上の強制措置」についてもそのきらいがあります。まずは、全体をイメージすることから始めましょう。

 行政目的が実現されないときに、実力に訴えて実現することを行政上の強制措置といいます。

 これは行政強制行政罰に分かれます。

【2分で学ぶ行政法】「行政上の強制措置」とは?行政上の強制措置は、行政強制と行政罰に分かれる

 行政が強制するので行政強制です。もうひとつは、行政上の義務違反に罰(ペナルティ)が科されるので行政罰とまず覚えましょう。

 たしかに、罰則は過去の行為に対する制裁です。しかし、罰則があることで「義務を守ろう」という気持ちも起こさせます。

行政強制の分類

 行政強制にも、いったん行政が義務を課して、義務を課された者がその義務を果たさないときに強制する行政上の強制執行とそうでない即時強制があります。義務を課さないで強制するので即時強制です。

 普通は、先に義務を課します。自発的に義務を果たしてくれることを期待するからです。しかし、義務を課す時間がないときや、義務を果たすことが期待できないときには、即時強制が行われます。

 即時強制の例としては、警察官職務執行法3条1項1号による泥酔者の保護がよく挙げられます。

 たとえば、道路で泥酔して寝込んでいる人に「こんなところに寝てたら危ないですよ、直ちにこの場から離れて安全な場所に移りなさい」と命じても、それができないので寝込んでしまっているのです。即時保護しかありません。

【2分で学ぶ行政法】「行政上の強制措置」とは?イラスト:草田みかん

 強制執行といえば、債務者の口座や財産を裁判所が差し押さえて債務を実現する手続を思い出します。そのため、これと区別するため、行政上の強制執行といっています。

行政罰の分類

 罰則は正式な刑罰である行政刑罰秩序罰に分かれます。

【2分で学ぶ行政法】「行政上の強制措置」とは?

 正式な刑罰である行政刑罰は、刑法の適用もあれば、刑事訴訟法の適用もあります。簡単にいえば、警察が捜査して、検察官が刑事裁判を求めて、刑事裁判で罪が裁かれるのが原則となります。

 一方、秩序罰は軽いペナルティ金と思えばいいでしょう。法律違反で科される過料は、非訟事件手続法に基づき地方裁判所が科します。ただ、通常の裁判の手続はとられず、簡単な手続で科されます。地方公共団体の条例や規則違反に科される過料は、地方自治法に基づき首長の処分として科されます。

 過料は正式な刑罰ではないのですから、過料を科されたという事実は前科になりません。

おさらいクイズ

 次の図の空欄1、2にふさわしい漢字2文字を入れて図を完成させてください。

【2分で学ぶ行政法】「行政上の強制措置」とは?

解答

 1 即時
 2 秩序

【POINT】

 ・ 行政上の強制措置には、行政強制と行政罰があります。
 ・ 行政強制のうち、義務を前提としない強制を即時強制といいます。

※本稿は、『元法制局キャリアが教える 行政法を読む技術・学ぶ技術』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。