新刊『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』(ロジャー・ニーボン著/御立英史訳、ダイヤモンド社)は、あらゆる分野で「一流」へと至るプロセスを体系的に描き出した一冊です。どんな分野であれ、とある9つのプロセスをたどることで、誰だって一流になれる――医者やパイロット、外科医など30名を超える一流への取材・調査を重ねて、その普遍的な過程を明らかにしています。今回は、50代でも成長し続ける人が欠かさない意外なことを、『EXPERT』本文より抜粋・一部変更してお届けします。(構成/ダイヤモンド社・森遥香)

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50代でも成長し続ける人が欠かさない意外なこと

「50代に入ったらキャリアは完成形」と思い込んでしまう人も少なくありません。しかし実際には、この年代こそ“熟達”に踏み込める黄金期です。ここで差がつくのは、日々の仕事の向き合い方。達人たちは必ず「ミザン・プラス」の考え方を実践しています。

ミザン・プラスとは何か

「ミザン・プラス(mise en place)」とは、フランス語で「素材の下準備」「物事をしかるべき状態に整えておく」という意味です。レストランの厨房では、瞬時の判断と完璧な連携が求められるため、この原則が絶対です。

「ミザン・プラスは厨房だけのものではない。これがあるからこそ、はじめて乗る車でも、ヘッドライトを点けたり、ウィンカーを点滅させたり、クラクションを鳴らすことができる。」
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.155より

たとえばレンタカーを運転したとき、ウィンカーを出そうとしてワイパーを動かしてしまった経験がある人も多いでしょう。これは、いつもと違う“配置=ミザン・プラス”に順応する準備が整っていないからです。

熟達者が自然にやっていること

初心者のうちは、どうしても目の前の作業だけに意識が奪われ、職場というシステムの重要性を見落としがちです。

初心者のうちは、個々の作業に意識が奪われ、職場というシステムがどのように構成されているかに気づきにくい。
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.156より

一方、達人は違います。

事前に準備を整え、材料や道具がどこにあり、どんな状態にあるのかを把握している。職場のレイアウトや道具の場所、次に何をするか、必要なものをどう取り出すかが頭に入っている。
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.156より

さらに、同じ空間で働く人々にも自然に配慮を重ねます。

使った道具は元の場所に戻し、ほかの人の道具には手を触れない。それをごく自然に行うので、初心者はそのような心づかいはおろか、システムの存在にも気づかないことが多い。
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.156より

これらは単なるマナーではなく、成長を続ける人が欠かさない“下準備”そのものです。

50代に必要な“準備力”

50代でキャリアの幅をさらに広げていくためには、「経験」や「実績」に甘んじるのではなく、むしろ“準備する力”を磨くことが欠かせません。

達人になるというのは、たんに道具や材料を扱えるようになることではない。それは、まわりの世界との関わり方を習得するということでもある。
『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』p.155より

つまり、自分のスキルや知識を超えて、環境や人との関係性までを含めた全体を整える力こそが、50代を飛躍の年代に変えるのです。

(本記事は、ロジャー・ニーボン著『EXPERT 一流はいかにして一流になったのか?』の抜粋記事です。)