家族が自分の喜寿のお祝いの食事会を開いてくれたのだけれど、みんなはフルコースなのに、自分だけお子さまランチみたいなワンプレートのカロリー制限食で我慢させられて哀しかった。自分のお祝いの席でなぜ食事を楽しめないのか、と。

 当時、まだカロリー制限を指導していた私は返す言葉がなく、自分は患者さんを幸せにする医療を提供できていないのではないかとの思いを強くするばかりでした。

カロリーや脂質量よりも
糖質量を調整するだけでいい

 そして2008年のことです。世界的権威のある医学雑誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に衝撃的な論文が掲載されました。

 カロリー無制限の糖質制限食(ローカーボ食)が肥満者の減量効果に最も優れ、糖尿病患者の血糖管理を最も良くしていた――。

 つまり、カロリー制限は間違いであり、糖質制限こそ効果的である。糖質さえある程度控えれば、あとは何を食べてもいい。好きなものを好きなだけ食べて構わない。「賢い不摂生」をすればいいというのです。

 そこから自分なりに検証を重ね、以降、患者さんに対して「お腹いっぱい食べてください」という生活指導を開始しました。

 そう言われても、本当に満腹になるまで食べていいのか、やはりカロリーの摂り過ぎは気になるという人も少なくないでしょう。

 しかし、たんぱく質も脂質も、食べると消化管ホルモンの分泌が高まり、糖質以上に満腹中枢が刺激されるため「お腹いっぱい」であることを知らせてくれ、自然と「食べ過ぎ」は防げます。加えてたんぱく質と脂質は、胃から分泌され空腹感をもたらすグレリンの分泌を長く抑制するため腹持ちを良くしてくれます。

 ロカボで心掛けるべき2つのうちもっとも重要な点は、1日の糖質摂取量を70グラムから130グラムに抑えることです。下限の70グラムは身体が飢餓状態に陥ったと判断しないようにする点から弾き出された数字です。

 また上限は、以下の根拠に基づいて算出しています。

 糖質は私たちの身体に欠かせないエネルギー源ですが、脂質もエネルギー源となります。そして、エネルギー源が糖質でないと困る細胞は赤血球と脳だけであり、両者が消費する1日の糖質量が約130グラムなのです。