板垣の思いを受けて、堤真一が芝居を変えたシーン

 先述したように堤さんとはあえて話さないようにしていたというが、北川さんとはまた違った接し方をしていた。

「堤さんとは短い時間しかご一緒できませんでしたが、北川さんとは今も一緒に撮影していまして。二人のシーンも多いですし、いろいろなお話をしています。トキの父・司之介役の岡部たかしさんと僕が出ていた『しあわせな結婚』(テレビ朝日)を見てくださっていて、その話もしました」

 父母から愛されていないと思いこんでいた三之丞が、トキが自分の実の姉であるという秘密を知って、本人にぶちまけてしまう。第15回は重要なシーンを任された。

「時代に翻弄されてしまったがゆえの雨清水家だったというところをしっかり出したいなと思いました。三之丞のセリフで『(トキのように)できれば私もよそで育ちたかったです』というセリフがあって。このセリフをどういうふうに傅とタエにかけるかで、伝わり方が全く変わってくると思うんです。

 今までの三之丞の流れのまま、あのセリフを言ってしまうと、雨清水家の家族のつながりがただただ希薄だったっていう風に伝わりかねないけど、ここではそうではないことを伝えたいと思いました。

 三之丞は父上と母上のことが好きだという気持ちを伝えたいがために、あえてああいうことを言う、そんなふうに聞こえるように演じたつもりです。おそらく、親子の愛が全くなかったわけではなくて、ただこの時代に生まれてしまったがために、傅もタエも三之丞もこういう風になってしまい、結果として親子のすれ違いが生まれてしまった。

 それをしっかり見せるため、あのセリフの前にワンクッションを置いて、傅さんと目線を合わせ、タエさんと3人で、家族としてキュッとまとまった中で言おうと考えました。そこに関しては北川さんも同じようなことをおっしゃっていました。母親として愛情がないわけがないと」

 板垣さんの思いを受け取って、堤さんも芝居を変えたという。

「『三之丞がそういうふうにセリフを言うのであれば、俺もこういう芝居にするね』と堤さんがおっしゃって、力の出ないなかで手を三之丞の頬に伸ばすという芝居をしてくださいました。あの堤さんの芝居を見ると、あの瞬間にやっと家族3人がひとつの線で結ばれた感覚があって。傅が事切れる直前の悲しい場面ではありますが、ちょっとした温かさを感じました」

 板垣さんや北川さんの思いと堤さんの芝居が呼応し、照明やカメラも存分に力を発揮した、まさに板垣さんのいう「総合芸術」だと感じる場面である。